西涼の巻・第二十八回:北郷一刀、覇王と共に江東の小覇王の葬儀に出発すること

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それからは怒濤のような毎日だった。
 蓮華との打ち合わせの結果、十五日後に俺と華琳が呉に向けて洛陽を発つことに決まった。
 つまり、それまでに北伐に関する諸々のことを手配しなければならないということだ。
 決めたことが実行されるのが俺たちがいなくなってからでも構わないにしても、指示だけは出しておかなければならない。
 幸い、魏には優秀な人材が揃っているので、指示というよりは指針のようなものを示せばすむから、だいぶ助かってはいる。
 それでも、詠なんてこのところは軍師の役目ばっかりで、メイド姿を見ていないくらいだ。
 といって、子供たちの面倒や雑務が月にだけ集中するということはなかった。この忙しさをもたらした本人たち――雪蓮と冥琳が手伝ってくれたためだ。
 大使のはずの小蓮が『シャオもめいどやるーっ』と突撃してきたりしたのは、まあ、笑い話というやつだ。
 洛陽には真桜の絡繰家事製品が多いせいで、雪蓮がいじくりまわして壊れることもよくあったが、これもまた大したことじゃない。電気製品はないので、感電事故は起きようが無いためだ。
 たまに爆発はするが、雪蓮が巻き込まれるはずも無い。
 そんなわけで、にぎやかで忙しなく、日々は過ぎていっているのだった。
「兄ちゃん、お昼いこーっ」
「昼にいくぞ、北郷」
「ああ」
 最近、昼食は季衣と春蘭の二人と一緒にいくことにしている。
 彼女たちが担当する中央軍との連携について、この時間で話しておく必要があるからだ。当たり前だが、彼女たちも忙しい身だ。
 お互い自由になる時間が少ない以上、昼食の時間も有効に使わないといけない。
 ちなみに、中央軍の本隊はほとんどがすでに黄河を渡っている。河北までの移動は、風が手配済みだ。
「ちょっと待ってくれよ」
 書類を片付けて出かけようとすると、春蘭たちを押しのけるようにして、北方から帰ってきた七乃さんと美羽がやってくる。
「一刀さん。客胡との交渉ですけど、やはり、この契約に関しては、早めに履行してしまって、後でものを受け取るほうがいいんじゃないかと……」
「一刀ーっ、客胡の商人が翡翠を送ってきおったが、もろうていいものかや?」
 急ぐ書類だというので目を通し、この程度なら七乃さんの決済でいいと指示を下す。
 美羽の翡翠のほうは、今後も送られてくるようなら集めておくように言いつけた。処分については後で考えることとして、迂闊に何事か約束したりはしないようきちんと言い含める。
「隊長~。真桜ちゃんからお手紙で、やっぱり葬儀にはぽりえすてるを着てきてほしいって。呉の人たちの要望らしいよー」
「ああ、了解。そのつもりだって返事しておいて」
 七乃さんたちが出て行ったかと思ったら、入れ替わりに凪と沙和。
 沙和のほうはたいした問題ではないが、凪はなにか深刻そうに書類を掲げている。
「隊長、兵站の件ですが、やはり輜重部隊の速度が……」
「ああ、凪。それは知ってるから、えっと、たしか……。ここに、馬を使っていいって許可があったはずなんだが……」
 書類を漁っていると、天和が滑り込んでくる。
「かーずとっ。北伐記念公演の場所とりなんだけどー」
「ん? それは、人和と桂花に任せてあるはずで……」
「あれー、そうなのー? お姉ちゃん聞いてなかったなあ。あー、あと、地和ちゃんがー」
 このあたりで、春蘭がだんっと大きく足を踏みならし始める。
「ほーんごおぉっ! 昼はどうしたーっ」
「いま行く、いま行くからっ」
 これが、ほぼ毎日だ。

 この他にも、白蓮から馬術の特訓を受けたり、ねねと机上演習を繰り返したり、先行して金城に赴く蒲公英を見送りつつ翠と羌の動向について話したり、流琉と乾燥食料を配備する話をしたり、恋と華雄に馬上で扱う武器の稽古をつけてもらったり、子龍さんと祭が盛大に飲み比べをしているのをなんとか説得して仕事に戻ってもらったり、文長さんが左軍の軍旗に劉の旗も入れろと言ってくるのをさすがに無理だとあきらめてもらったり。

 もう本当に色々あった。

 個人的なことで言えば、霞が――本当にありがたいことに――北伐出陣前にゆっくり一日過ごしたいと誘ってくれたり、洛陽にいない間の子供たちと母親たちの世話に協力することを紫苑に約束してもらったり、桂花の罵りが無責任孕ませ男から無節操孕ませ男になっていることに気づいたり、稟に乳の出が悪いことを相談されたり、母乳に関しては調子のいい桔梗と冥琳に改めて他の子たちにも乳を分けてほしいと頼んだり、華琳と打ち合わせをしに行って閨に引きずり込まれたりと……まあ、嬉しくはあるのだが、正直、体力の限界を見た日々だった。
 麗羽が夜食にと差し入れてくれた手料理を、とんでもない見た目を我慢して無理矢理食べたら案外美味しくて、しかも三日間くらい眠らずに済んだから助かったけど。
 斗詩と猪々子が妙に心配していたし、俺もちょっと怖くなったけど、何が入っていたかは聞かないことにする。
 きっとそのほうがいい。

 ともあれ、なんとか出発の日までには、北伐の軍のほとんどを無事洛陽から送り出すことが出来た。
 それぞれの集結地にたどり着くのも、そこから進軍を開始するのも、まだ先の話だ。だが、まずは順調な滑り出しと言ってよかった。
 これ以後しばらくの問題は、守将の流琉と、それを支える稟、桂花の二人に任せるしかない。
 大鴻臚である俺と魏の覇王たる華琳は――それが偽装だと知っているとはいえ――孫策という他国の王の葬儀に出なければならないのだから。

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