「今日は、よろしくお願いいたしますわね」
「おねがい……いたし、ます!」
母のほうは艶然と、そして、娘のほうは一生懸命にかわいらしい。そんな挨拶が飛んでくる。
紫苑と璃々ちゃんは、わざわざ俺の部屋まで来て、そんな風に言ってくれた。
璃々ちゃんのほうはちょっと怪しいところがあったけど、なんとか言い切れたようだ。
たぶん、親子で挨拶の練習とかしてるんだろうな。
「こちらこそ」
言って立ち上がる。そうして、彼女たちのことを観察して俺は微笑んだ。
「璃々ちゃん、とってもお似合いだね」
「ありがとうございます」
「へへーっ!」
紫苑は普段通りに彼女によく似合う衣装を身に着けているが、璃々ちゃんのほうは、だいぶおめかししている。
お出掛け用にと紫苑が用意したのだろう。全体的にいつもより装飾が多く、それぞれの意匠も細かい。
ただし、首元や肩のあたりにはふりふりの飾りのつけられたかわいらしいデザインではあるものの、袖口やスカートの裾は刺繍はあっても布の形状自体はシンプルな作りで、動きを邪魔しないように出来ている。
はしゃぎまわる子供のことも考えてのデザインであり、チョイスだろう。
あまりふりふりで固めすぎると――見ている方は楽しくても――子供は動けなくて不満ってことがあるからな。
そこをきちんと考える紫苑はさすが母としての経験値が高い。
俺は、彼女たちに近づき、紫苑にそっと耳打ちする。
「本当に可愛い服だね。それに、紫苑もいつも通り美人だ。蠱惑的だ」
「あら、口説かれるおつもりでして?」
「いいや、いまはまだかな」
「残念」
本気なのかどうか――おそらく俺たち自身にも――よくわからないやりとりはそれで済ませておく。
あまり二人だけで話していると、璃々ちゃんが仲間はずれの気分になるだろうしな。
「じゃあ、行こうか」
俺は、不思議そうに俺たちを見上げている璃々ちゃんの手を取り、そう告げるのだった。
今日は、二人とデートなのだから。
恋姫SSを書かれる作家さん達は紫苑のことをエロ系お姉さんとして捉えている様に見受けられますが、ああ見えて紫苑は娘の璃々に嫉妬する位に可愛い女性(ひと)なんですけどねぇ。あまり認知されないけど······
そうなんですよねー。
私も以前書いたときは、そうした少女のようなかわいらしさをうまく表現することが出来なかったので、このサイトに載せる分ではなんとか……と頑張ってます。
結局の所、紫苑さんは家と領地のために、いわゆる青春を謳歌出来なかったわけですよね。
それは時代背景としてはむしろ当たり前で、一刀さんやそれに影響されたメンバーのほうがおかしいくらいではあります。
でも、おかしくてもなんでも、恋をそれこそ命がけで楽しんでいる一団が近くにいるのは確かなわけです。
そんな中で、紫苑の中の少女の部分が出てくるってのは、まあ、実は当たり前のことなんじゃ無いかなとも思います。
蜀ルートではないので、なかなか難しい話ですが、一刀さんを心から信頼できるようになれば、もっと甘えられるのでしょうねー。
そういう部分まで描き出せたらいいなあとも思ってはおります。