西涼の巻・第二十五回:黄漢升、洛陽の地にて北郷と戯れること

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「今日は、よろしくお願いいたしますわね」
「おねがい……いたし、ます!」
 母のほうは艶然と、そして、娘のほうは一生懸命にかわいらしい。そんな挨拶が飛んでくる。
 紫苑と璃々ちゃんは、わざわざ俺の部屋まで来て、そんな風に言ってくれた。
 璃々ちゃんのほうはちょっと怪しいところがあったけど、なんとか言い切れたようだ。
 たぶん、親子で挨拶の練習とかしてるんだろうな。
「こちらこそ」
 言って立ち上がる。そうして、彼女たちのことを観察して俺は微笑んだ。
「璃々ちゃん、とってもお似合いだね」
「ありがとうございます」
「へへーっ!」
 紫苑は普段通りに彼女によく似合う衣装を身に着けているが、璃々ちゃんのほうは、だいぶおめかししている。
 お出掛け用にと紫苑が用意したのだろう。全体的にいつもより装飾が多く、それぞれの意匠も細かい。
 ただし、首元や肩のあたりにはふりふりの飾りのつけられたかわいらしいデザインではあるものの、袖口やスカートの裾は刺繍はあっても布の形状自体はシンプルな作りで、動きを邪魔しないように出来ている。
 はしゃぎまわる子供のことも考えてのデザインであり、チョイスだろう。
 あまりふりふりで固めすぎると――見ている方は楽しくても――子供は動けなくて不満ってことがあるからな。
 そこをきちんと考える紫苑はさすが母としての経験値が高い。
 俺は、彼女たちに近づき、紫苑にそっと耳打ちする。
「本当に可愛い服だね。それに、紫苑もいつも通り美人だ。蠱惑的だ」
「あら、口説かれるおつもりでして?」
「いいや、いまはまだかな」
「残念」
 本気なのかどうか――おそらく俺たち自身にも――よくわからないやりとりはそれで済ませておく。
 あまり二人だけで話していると、璃々ちゃんが仲間はずれの気分になるだろうしな。
「じゃあ、行こうか」
 俺は、不思議そうに俺たちを見上げている璃々ちゃんの手を取り、そう告げるのだった。
 今日は、二人とデートなのだから。

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