西涼の巻・第二十四回:楽文謙、北郷と共に書店を訪れること

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「あ、あの……」
 一人の町娘が、街角に立っていた俺に声をかけてくる。
 長い髪を編み込んで背後に垂らしたその女の子は、ここ最近町で流行しているらしいレースたっぷりの服を着て、とても可愛らしい。周囲もちらちらと彼女の事を見ていた。
 その視線を感じているのだろう。彼女はなんだか照れ臭そうにしていた。
「お待たせして……じゃない。待った……?」
「いやいや、いま来たところだよ」
 俺は笑顔で応じる。彼女は次いで何事か言おうとして、ぶんぶんと首を振って、それを呑み込んだようだった。
 もじもじと体を揺らし、顔を真っ赤にして、小声で俺にささやきかけてくる。
「あの、隊長。無理です。これ」
「無理か」
「はい」
 凪があんまりにも赤面しているので、さすがに小芝居を続けるのは無理と判断する。
 あこがれてたんだけどな。
 こう……普通のデート。
 せっかく、城を出る時間も別々にして、街角で待ち合わせをしてみたのだが……。凪の好みで無いというなら、しかたあるまい。
 とりあえず、最初のやりとりだけでもなかなか楽しかったしな!
「うん。まあ、普段通りにいこうか」
「それがよろしいかと思います」
 それでも、町娘の恰好をした凪は本当にかわいい。
 普段まとっている鎧もけして悪くは無いが、たまには可愛い恰好をしてもいいだろう。
「あの、隊長」
「町の男女のふり……というのは終わったので、着替えてきても」
「それはだめ」
 凪の台詞にかぶせ気味に否定する。凪は、うぐ、と奇妙な音を喉で鳴らしていた。
「しかし、このような衣服は、私にはあまり……。その、ここに来るまでにもじろじろと見られましたし……」
「それは、あれだろ」
 着慣れない服に恥ずかしさを感じている凪に、俺は笑いかける。
「凪が可愛いからだよ」
「かわっ……!」
 少し戻っていた顔色が、また真っ赤になる。
 彼女は顔を赤くしたまま、隊長が……とか、いや、でも……とかなんとかぶつぶつ呟いていたが、結局、俺のにこにこ顔に諦めたようだった。
「わ、わかりました。隊長、今日は、その……よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
 そうして、俺は、凪とのデートを開始するのであった。

 当初、沙和と凪と三人でデートという話が、凪と二人きりになったのは理由がある。
 どうやっても三人一緒の時間を取ることが出来なかったのだ。
 当たり前の話だが、俺も二人もそれぞれに仕事がある。
 しかも、何時から何時までと働く時間が決まっているわけでもない。さらに言えば、不測の事態というやつがいつでも舞い込んでくるのが俺たちの仕事だ。
 書類仕事だけで済む時は調整も利きやすいが、会わないといけない相手とか、出席しなければならない宴席とか、顔を出さないといけない儀礼なんてものがあるから、どうやっても時間を作るのが難しくなってくるのだ。
「あーっ、もう! たいちょー忙しすぎなの!」
「す、すまん」
 沙和と予定の調整をしていた時、ついに彼女はそう言っていらだたしげに竹簡を投げ出してしまったのだ。
「……これで体大丈夫なのー? ちょっと心配かも」
「いや、結構いけるもんだぜ」
「でも……この上、華琳様たちのお相手もあるでしょー?」
 卓の向こうから、上目遣いに小声で尋ねてくる沙和。さすがの彼女でも、華琳が俺の閨に来るのを咎めるわけには行かないのだろう。
 それに、彼女自身もその『たち』の中に含まれているわけだしな。
「むしろ、それがあるからやってけるんだよ」
 これは本音だった。
「というより、それがなかったら、たぶん無理だな」
「さすが、三国一の種馬は言うことが違うの!」
「おいおい」
「あはは、冗談」
 笑ってから、沙和はつと目を伏せた。長い睫毛が彼女の瞳を隠し、普段の明るい雰囲気をも隠す。
 元々がとびきりの美少女だけに、そんな憂い顔を見せられると、どきりと心臓がはねてしまう。
「でも、沙和たちも同じだよ。大事な人がいて、その人とふれあうことで力をもらうって、よくわかるの」
 俺は黙って彼女の言葉を聞いていた。
「だから、もし、沙和たちとの時間がその大事な人にとっても力になってるなら」
 そこで、沙和は顔を上げ、俺をじっと見つめながら、さわやかに笑みを見せた。
「それはとっても嬉しいな」
「沙和……」
 俺たちは見つめ合う。
 沙和の瞳に俺が映り、俺の瞳には沙和が映っているはずだ。俺たちはそうして見つめ合う内にお互いの境界がどこにあるのかだんだんとわからなく……
「って、ちがうの!」
 お互いに近づけあっていた体を、沙和のほうが急に離す。そのせいで、俺は卓の上に倒れ込みそうになり、なんとか踏ん張って椅子に体を戻すはめになった。
「良い雰囲気は後に置いといて、まずは予定を立てないとなの!」
「はい、その通りです」
 彼女の言うことは尤もなので、甘い雰囲気はひとまずお預けにして考え込む。
「うーん」
 同じように考え込んでいた沙和が、諦めたようにうなりをあげた。
「でもどう考えても三人の時間をひねり出すのはとても無理なの。だから、とりあえずは凪ちゃんとたいちょーで遊んできて?」
「いや、それは……。沙和に悪いだろ」
「沙和がいいって言ってるの」
 それに、と彼女は難しい顔で付け加えた。
「沙和は好きなときに好きなようにできるけど、凪ちゃんは遠慮しちゃうでしょ-?」
「まあ……そういう傾向がないとは言わないが」
 実際には沙和だって好き勝手しているわけじゃない。空気も読めば我慢もしている。
 だが、それを口にしても沙和は照れるだけで認めようとはしないだろう。
 ついでに話も進まない。
 だから、俺は苦笑するに止めておいた。
「だからー、たまには……ね?」
「……まあ、そうだな」
 凪が遠慮しがちだというのも事実だ。
 親友のそうした傾向に対して力になろうと思う沙和の気持ちもわかるし、大事にしてやりたいと思う。
 俺は少しだけ考えて、頷いた。
「わかったよ。そうしよう。ひとまず凪と俺の休日なら合わせられるからな」
「うん。そうするといいの。そ・の・代・わ・りぃ」
 くすくす笑いながら、彼女は俺を探るように見つめてくる。その様子に、さきほどあった甘い空気が再び漂ってくる。
「わかってるとも」
 それだけ言って、俺は立ち上がり、彼女を引き寄せ、強く抱きしめるのだった。

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西涼の巻・第二十四回:楽文謙、北郷と共に書店を訪れること」への2件のフィードバック

  1. 恋姫SSにおいて凪の拠点ネタは然程珍しくないのですが、沙和の単独ネタは少ないのである意味貴重な話かなぁと思う次第です。
    「手裏剣戦隊ニンニンジャー」が次週(2/7放送分)最終回を迎え、新たに「動物戦隊ジュウオウジャー」が2/14にスタートするのですが、はたして売れる(又は、受ける)のか?が気になるところだなぁ。

    •  凪は三人の中でもまじめなだけに、かえってピックアップされやすいのかもしれませんね。まあ、ただ、この作品だとあまり凪は目立っていなかったので、ここで出番を増やしてあげたいところですw
       沙和は沙和でもっと描いてあげたいですね。真桜が呉で一緒だったのもあって……。

       戦隊ものは、次々投入される中で目立つほどの特色が無いと大変そうですねー。

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