西涼の巻・第十四回:呂奉先、心がおなかいっぱいになること

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「とにかく、参加武将を確定させて、その連中をしっかり集めなさい。いい? しっかりよ?」
 と詠に念おしされたこともあり、俺は城内を探し回っていた。
 北伐参加武将一人一人と話し合おうと思ってのことだ。
 部屋に呼び出せばすんなりと会えるのだが、そうするのはなんだか失礼な気がしたのだ。
「とりあえずは……っと一人目みっけ」
 そちらを示すと、護衛に付いてきてくれた華雄が目を細める。
「ふむ」
 その視線の先にあるのは、剣を振るう白蓮の姿。
 踏み込む勢いと共に剣が空気を切り裂く。引き戻された切っ先が、茜色に染まりつつある天を指すと共に、踏み込んだ足が戻り腿が高く上がる。
 再び左右に振られる剣。その振られる先に、切り倒される敵のイメージが幻視されたような気がした。
 その動きはいずれも流麗で所作の一つ一つがきびきびと行われている。
「剣舞みたいだ」
「たしかに、型通りで美しい。だが、それだけとも言えるな」
「さすがに厳しいな」
 俺から見れば、白蓮も武の達人。その剣尖の鋭さは、感嘆の対象だ。
 だが、華雄は遥かその先を行っている。
 俺からすれば信じられない程の高みにいる人間から見れば、あの剣舞さえまだまだというところなのだろう。
「筋が悪いというわけではない。そも、あれの本領は馬上だ」
 そんなことを話しながら近づいていくと、白蓮のほうが気づいたらしい。剣をおさめ、汗を拭いてこちらに歩み寄ってくる。
「ああ、華雄に一刀殿」
「精が出るね」
「鈍らせるわけにもいかないからな」
 にっこりと笑いかけてくれるのを嬉しく思っていると、腕を組んだ華雄が口を開いた。俺は思わずどきりとする。まさか、あけすけな批評をするんじゃないだろうな。
 白蓮って、結構そういうの凹んじゃう性質だと思うのだけど。
「一ついいか?」
「ん? ああ」
「長柄は使わないのか? 馬上で使うなら長柄のほうがよかろうに」
 華雄の指摘は俺の思ったのとはまるで違っていて、こっそりと安堵の息をつく。
「ああ……うん。私は、ほら、自分の軍を率いていたあとは、桃香のところだったろう? あそこは、愛紗……えっと、関羽に張飛に趙雲、呂布と強者がいたからな。私自身は指揮に専念することのほうが多かったんだ」
 それで剣か。
 たしかに、武将同士の戦いで前面に出て戦わないのならば、攻撃的な武器はそれほど必要ない。
 自分の身を守れれば充分として、攻撃範囲は狭いものの使い勝手がよく、指揮権や王権の象徴となる剣や刀を使うという選択をするのもわかる。
 実際に指導的立場にある麗羽や雪蓮、劉備さんは剣を使っているはずだしな。
 従う部下にしても、己の部隊の将には、戦うより指揮に注力してもらうほうが安心だろう。
 これが恋のようなとてつもない武勇をもつ将ともなると、将軍自ら前に出てその力を示すことで部下を鼓舞する方がよかったりもするのだが。
「しかし、そうだな、今後はそうも言ってられないな。久しぶりに矛か偃月刀でも使うか……」
 矛は斬ることと刺すことどちらにも使えるが、偃月刀は基本的になぎ払う武器だ。
 やはり、馬上で使うには、振り下ろし、なぎ払うという動作の方が便利なのだろう。
 刺突は強力だが、動き回る馬の上からではなかなか難しいからな。そういえば、翠とたんぽぽはなにを使っているのだっけ。
「霞に相談してみたらどうだ?」
「それがいい。たしか、真桜が打った偃月刀の予備があるはずだ」
 おや、そうなのか。
 俺はただ単純に霞なら馬上で使う武器のことには詳しかろうと思っただけだったのだが。
「霞や愛紗が使ってるやつだろう? 私なんかが扱えるか?」
「たしかに、使いこなせぬ武器を使えばかえって命とりとなるが、そこは振るってみて判断すればよかろう。下手な武器を使って折れてしまった、割れてしまったではたまらぬ。その点、霞も使っている真桜の武器なら信用できるのではないか?」
 たまに爆発するけどなと言いたくてたまらなかったが、ここは我慢。
 実際、武器はそんなことはないはずだし。なにかの機構がついていると、おかしなことが起こる可能性が格段に高まるけど。
「それもそうだな。じゃあ、それは聞いておくよ」

 後に聞いたところによると、霞のところにあった予備というのは、飛龍偃月刀の改良品として試しに作ってみたら関羽の青龍偃月刀よりもかなり軽く出来てしまったため、霞からダメ出しされた物だったらしい。
 破壊力で言えば重い方がいいので、あの真桜も素直に作りなおした結果が現在の飛龍偃月刀なわけだ。
 だが、白蓮にはその軽さがあっていたらしく、譲り受けて白龍偃月刀と名付けたとか。振るった時の威力は青龍偃月刀や飛龍偃月刀より落ちるのかもしれないが、戦場で使うには充分すぎる物のようだった。

「それで、なにか話があったんだろう?」
 汗もひいたらしい白蓮が尋ねかけてくる。
 ふと見ると、彼女が背にした空が真っ赤に燃え上がり、彼女の髪と同じような色合いをしていることに俺は気づいた。
「ああ。北伐の軍を起こすのは聞いていると思うけど……」
 ひとしきり、北伐の概要を説明し、左軍の陣容もまた説明する。そこに、白蓮を必要としているということも。
「つまり、私に騎兵を率いて参加しろということだな」
「うん、そうしてくれたら嬉しい。白馬義従の戦闘力は是非欲しいし、それに、烏桓も華雄や恋に任せるにしたって、白蓮の意見を聞きたいし……」
「鎮北府の開府はどうする?」
「ああ、それは、鎮東鎮北府として開府することになるかもしれないから……。そうだね、まずは北伐後かな。北伐後の領地経営にも鎮将軍は関わるだろうしね」
「そうか、了解した」
 重々しく白蓮が頷いたところで会話が途切れ、沈黙が落ちる。
 迷っているのだろうとしばらく待っていると、奇妙な空気が流れ、華雄と白蓮が揃って首をかしげる。
「一刀殿?」
「ええっと、あれ? その、北伐には参加してくれるのかな」
 その言葉にさらに首の角度が傾く白蓮と華雄。
 あ、実はこの二人、瞳の色がそっくりだな。どちらも綺麗な深い琥珀色だ。
「え? あ、ああ、もちろん」
「先程了解したと言っていたではないか」
 あらら、そうだったのか。華雄に指摘されてようやく気づく。
「いや、ごめん。こっちが受け取り損ねたみたいだ。じゃあ、よろしく頼むよ、白蓮」
「ああ」
 ようやく普通に戻った空気の中、軽く頷いてから、彼女は小さく笑った。
「でも、おかしなやつだな、一刀殿は」
「え?」
「手勢を連れて参陣しろと命じれば済むことじゃないか」
 いや、それは、と言いかけて、華雄がくつくつというおなじみの笑いの後で口を挟んできた。
「こやつは、そういうことが出来んのだ。まだまだ甘い」
「へぇ……」
 不思議そうに俺を眺める白蓮。そして、俺は四つの琥珀の瞳に見つめられ、なぜかだらだらと脂汗を垂れ流すのだった。

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西涼の巻・第十四回:呂奉先、心がおなかいっぱいになること」への2件のフィードバック

  1. 詠ちゃんは本当に可愛いな····詠ちゃんに「兄さん(もしくは、義兄さん)」と呼んでもらったら萌えまくり状態確定です。
    10月18日放送分の「手裏剣戦隊ニンニンジャー」は、実に良かった。ジライヤを知ってる人にとってかなり楽しめる内容だったと個人的には思いますが·····ジライヤスーツの装着手順が放映当時と違っていたのが気になったです。

    •  詠は本当にいいですよね。
       ツンデレと言われるキャラは類型的な感がどうしてもありますが、魅力的なキャラはそれだけではけしてないですからね。
       恋姫たちの本当の魅力を描き出せて行ければいいなと思っております。
       
       特撮に関わる方々の作品愛はさすがですね。ただ、失われてるものもあるでしょうし、完全再現というわけにはいかないのでしょうかねー。

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