西涼の巻・第十三回:錦馬超、涼州の束ねとなるを決意すること

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「『びすけと』というのは、お菓子ではないのですか?」
「うん。まあ、俺の世界じゃそういう風に発展したけど、元々は保存を考えたものなんだよ。二度焼きで焼き締めて水分を飛ばすことで、日持ちするようにしたんだっけかな」
「そうなのですか……。では、甘く仕上げる分を、保存が利くように材料を変えてみるのもいいかもしれませんね。乾燥果実を使って、栄養を保てば、もしかして……」
「えー。ボク甘いほうがいいなー」
「季衣、いまは、兵の携行食に応用できるか話してるんだから、季衣が普段食べるのは別だよ」
「でもさ、兵のみんなだってさー」
 捕まったままの流琉たちと、新しい携行食の可能性を語っていると、とてとてと近づいてくる人影があった。
 特徴的な赤毛に、ぴんとはねた二本の髪の毛。
「あら、恋ちゃん」
 そこにいたのはまぎれもなく呂奉先こと恋であった。
 なぜか、じーっと俺たちを見ている。
「どうしたー、恋。おいしそうな話をしてたから、つられてきたか?」
 冗談まじりに問い掛けると、ふるふると首を振られた。
 どうやら、いまはお腹はすいてないらしい。時間的にお昼は終えたところだろう。
「ん、なにか用? 月か詠が呼んでるとか」
「……違う」
 これにも首を振られる。すっと指が伸び、だるまさんがころんだを唱えている璃々ちゃんを指さす。
「ああ、そっか。遊びたいの?」
「うん」
 そうだな、紫苑との話も一段落したところだし、ここは一つ……。
「璃々ちゃん」
「なあにー?」
 ちょうど、斗詩が動いたのを指摘した後の璃々ちゃんが振り返る。頭のリボンがその動きに連れて大きく揺れた。
「俺と恋も参加していいかい? たんぽぽもどう?」
「うん。途中からでいいなら、たんぽぽもー」
 俺たちの提案に、璃々ちゃんはきょろきょろをあたりを見回し、最後に紫苑に助けを求めた。
「んー、どうしよう。お母さん」
「いま一番後ろなのは……天和さんね。天和さんより、五歩後ろからはじめるってことでどうかしら?」
「いいよー」
 そういうことになった。
 季衣と流琉からは、ずるいとか言われたけど。

「だる~ま~……」
 俺は一歩一歩慎重に進んでいた。璃々ちゃんは子供ながらに――いや、子供だからこそ、この遊びの特徴を捉えていて、唱える速度の調節の仕方や調子の外し方をよく心得ていた。
 実際、あの後、猪々子と天和が捕まっている。
 俺は、きっと今回は途中で転調するだろうと予想して、早めに足を止めた。
 そこに、やつが降ってきたのだ。
「ちんきゅーいーなーずーまーっきーーーくっ!」
 腹部に思い切り衝撃。たたらを踏んで、それでもなんとか転ばずに耐え切った自分を褒めてやりたい。
 いや、力のままにふっとばされると、周りの誰かに当たりそうだったので、耐えるしかなかったのだけど。
「ふっ。甘いな、陳宮。この鋼鉄の腹筋がーっ……うう、いてぇ!」
 はい、痛いです。ほんと痛いです。勘弁してください。
 痛みを紛らわせるために叫んでみたが、痛いものは痛い。
 蹴ったほうの陳宮は、ふふんと腰に手を当てて威張り顔だ。そこへ猛然と走り寄ろうとして、美羽と七乃さんに無理矢理に止められている麗羽から声が飛ぶ。
「我が君になにをなさいますの、このちんくしゃっ!」
「ちんくしゃとは……」
 咄嗟に麗羽の罵声に応戦しようとしたところへ、璃々ちゃんがとことこと寄ってくる。
「ねねおねーちゃん、邪魔しちゃ、めっ」
「え? あ、いや、ちがうです、ねねはそんな……」
 無言で集まる非難の視線。麗羽までじとーっといやな視線を送っている。
「ねね、邪魔、だめ」
 止めは恋の言葉で、ついに陳宮は進退窮まった。
「ちがうですーーっ」

 そんなわけで、陳宮共々、捕まってしまうことになりました。
「うう、なんで、へっぽこ主と手をつないでなければならないのですか」
 小さい手を握っていると、陳宮が愚痴愚痴と恨み言を述べ始める。しかし、本当に小さいな。
 年齢はともかく、背丈だけなら季衣より小さいか?
「邪魔しなければいいのにー」
「だから邪魔したわけでは……このへっぽこがですねー」
「いいから、騒がない」
 天和に抗弁しようとする陳宮を諫める。
 さすがにこれ以上邪魔するのは璃々ちゃんに悪い。いや、蹴られる覚えもないけれど。
「だいたい、のんきに遊んでる場合ですか。しかも、こんなにたくさんの武将たちが」
「ごめんなさいね、うちの璃々が……」
「り、璃々を責めてるわけではないですよ、ただ、この緊張感のない武将たちがですね……」
 憎々しげに言って、紫苑にまた痛いところをつかれる陳宮。あんまりヒートアップさせてもいけないので、やんわりと言っておこう。
「璃々ちゃんにしろ、紫苑にしろ、これから一年あまりはこっちで暮らすんだ。こうして、城の中で触れ合う面々と遊んで、親交を深めておくのもありだと思うぞ。普段、酒宴やなにやらで大人たちがやってるのと同じさ」
「そう言われればそうかもしれませんわね。お酒の席で密談するより、こうしてお日様の下で動くほうが、よほどいいかも」
「あたいもこういうほうがいいなー。あ、でも、御馳走食べるのもいいよな」
「ボクもいっちーにさんせー」
 季衣と猪々子の反応に、斗詩と流琉が顔を見合わせ、苦笑する。そんなみんなの反応を見て、陳宮も思うところあったのか、ようやくおとなしくなってくれた。
「まあ、そう言われれば……。しかし、捕虜から開始とは」
「そりゃあ、いきなり『きっく』から入るから」
「お前が悪いですよー」
「はいはい」
 ぎろり、と見上げられるのを適当にいなしつつ、それでも俺は、本当におもしろい子だなあなんて考えていた。
 ただ、だるまさんがころんだに熱中しながらも、こちらにちらちらと送られてくる恋の視線だけが気にかかる。
 果たして彼女は、俺を見ていたのか、それとも陳宮を?

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西涼の巻・第十三回:錦馬超、涼州の束ねとなるを決意すること」への2件のフィードバック

  1. 蒲公英の台詞で「たんぽぽ、荷物置きに来た」とあるけど「たんぽぽ、荷物を置きに来た」のほうが(文章的には)正しいのではないでしょうか?
    10月18日の「手裏剣戦隊ニンニンジャー」で「世界忍者戦ジライヤ」のジライヤがゲスト出演するとのこと。

  2.  文章としては仰るとおりですね。
     ただ、たんぽぽの性格を考えると、こうした言葉の抜けもあってもいいのではないかと思ってこうしております。

     ジライヤってだいぶ昔のですよね。
     そんなのまで出てくるんですね-。色々とすごいなあ。

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