西涼の巻・第十三回:錦馬超、涼州の束ねとなるを決意すること

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 別れというのはやはり、切ないものだ。
 たとえ、それが一時的なものに過ぎなくとも。
 蓮華たちへの引き継ぎを終え建業へと帰る明命を、呉の皆と華琳たちとで見送ったあとで城内を歩きながら、俺はなんとなくもの悲しい気持ちになっていた。
 見送りの最中、一言たりとも蓮華が口をきいてくれなかったことも、その原因の一つかもしれない。おかげで昨晩なにを相談しにきてくれたのかさえわからない始末だ。
 だが、そんな呉の面々との問題はあるものの、仕事は進めなければいけない。
 大鴻臚としても、北伐左軍大将としても、早急に翠をはじめとした蜀勢と話し合いを持たなければならなかった。
 そんなわけで、俺は感傷的な気分を引きずりながら、蜀の面々を探していた。
 桔梗が養育棟にいるのはわかっていたが、できれば臨月に入るというこの時期に彼女を煩わせたくはなかった。
「うーん。どこにいるんだろう」
 大使執務室に行ってみたら、みな昼食に出たままか洛陽を視察に出るかしていると言われてしまった。
 そこで、まずは城の中を探しているのだ。
 もし城内にいないなら見つけるのは難しい。その場合は夜まで待つしかないだろう。
「ここにいるぞーっ!」
「ええっ!?」
 明るい声に驚きながら振り返ると、オレンジ色の小さな体が元気に廊下を走ってくるところだった。
 彼女の服がキュロットのような形になっているのは、馬に乗りやすいようになのだろうかね。
 動きやすそうで元気な彼女に似合っている。
「走っちゃ危ないよ。馬岱さん」
「はーい。北郷さんはなにしてるの?」
 素直に走るのをやめ、横に並んでくる馬岱さん。俺は彼女に合わせてそのまま歩きだした。
「うん。馬岱さんたちを探してたんだ。翠はどこにいるかわかる?」
「お姉様? お姉様ならあっちの庭にいるよ。たんぽぽ、荷物置きに行ってたんだ」
「そっか。じゃあ、悪いけど、馬岱さん。案内してくれないかな」
 そう言うと快く頷いてくれたが、その後で首をひねって足を止めてしまう。
「んー。その馬岱さんってなんだかなあ」
「そうか。じゃあ、馬将軍?」
「そうじゃなくて。たんぽぽって呼んでいいよ」
 てっきり失礼だと思われているのかと思ったら、逆だったらしい。あっさりと真名を預けてくれる彼女に驚いてしまう。
「いいのかい? 真名だろう?」
「うん。なんか、聞くところによると、北郷さんってばみんなの恋人なんでしょ?」
 みんなの恋人、というのは新しい表現だ。だが、魏の種馬なんてのより百倍はましだ。
「しかも、あの霞姉様まで恋人なんでしょ。たんぽぽ、お姉様より馬がはやい人なんていないと思ってたんだよね。でも、霞姉様と絶影は、もしかしたらお姉様を負かしちゃうくらいすごいんだもん。びっくりしちゃった」
 どうも、たんぽぽは霞の下で鎮西府の仕事をしている内、霞のことを尊敬するようになったようだ。
 たしかに騎馬を操るのに長けた馬一族の人間に、騎将として憧れの存在となりうるのは錦馬超、神速張遼、白馬長史くらいしかいないだろう。
「まあ……霞はすごいな。翠といい勝負ができるだろうね」
「そんなわけでー、お姉様も霞姉様も真名を預けてるし、それだけみんなの信頼を集めてるならいいかなって思ったわけ」
「そっか、ありがとう。たんぽぽ。俺のことは一刀でいいよ。真名がなくてごめんな」
「はいはーい。一刀兄様かお兄様って呼ぶねー」
 お兄様か。くすぐったいが嬉しいものだ。
 でも、そこまで親しいわけでもないのに、いいのかな。そう思ってたんぽぽを見下ろすが、彼女は大きな目でこちらを見つめ返してくるだけだ。
 もしかしたら、ふざけ半分かもしれないけれど……。それでも、まあ、いいや。
「じゃ、案内するねー」
 俺は、蒲公英の後に続いて翠たちがいるという庭に向かって歩きだした。
 落ち込んでいたはずの気持ちは、いつの間にかすっかり立ち直っていた。

 俺たちは、邪魔をしないようその光景を眺めていた。だが、俺の姿に気づいたらしい二つの頭がこちらを向いてしまう。
 片方は大きなリボンがついていて、もう一人は、頭の両側に髪を結い上げている。
 流琉と季衣だ。
「あ、兄ちゃ~ん」
「兄様~!」
「季衣おねーちゃん! 流琉おねーちゃん! 動いたー」
 大樹の根元によりかかるようにしている璃々ちゃんが指を差し、二人はなにかを思い出したかのように固まる。
「あっ」
 だるまさんがころんだの最中に俺に手を振った二人は璃々ちゃん鬼によって捕まってしまった。

「悪いな、季衣、流琉」
 璃々ちゃんのところへ行って紫苑と手をつないでいる季衣たちに合流する。どうやら、紫苑は捕虜をまとめる役をやっているらしい。
 捕虜を解放する時は、繋いでる手を手刀で切る方式かな?
「もー、兄ちゃんのせいで捕まっちゃったよー」
「すまん、すまん」
 謝って頭をなでる。気持ちよさそうに首をすくめる季衣。
「しかし、すごい面子だな」
 璃々ちゃんが鬼をやっているから紫苑がいるのは当然として、季衣に流琉、翠に麗羽、斗詩、猪々子、美羽に七乃さん、沙和に天和までいる。
 みんな、璃々ちゃんがだるまさんがころんだを言い終えると、奇妙な格好で静止している。
「最初は、紫苑さんたちとお昼ごはんを食べに行ったんです。洛陽を案内がてら」
「ええ、翠ちゃんたちも一緒に案内してもらってたんですの」
 紫苑も洛陽には何度も来ているだろうが、やはり、一時的な滞在と、大使として住むのでは勝手が違う。この街の隅々までよく知っている季衣たちは、案内にも向いていることだろう。
 ちょっとだけ食関連に偏るけど。
「そのあと、腹ごなしに遊ぼうってことになりまして。だるまさんがころんだをはじめたら、昼休みでちょうど暇だったらしいみんなが寄ってきましたの」
「それで、これだけの武将がね」
 俺はその光景を見渡す。
 世間では有名な武将・豪族として知られている面々が、大まじめな顔で璃々ちゃんのいる場所に近づこうとそれぞれに工夫をこらしている。
 麗羽はだるまさんがころんだが続く限り走り続けて、声が終わると同時に無理矢理な格好で静止している。一方、七乃さんは美羽を抱えるようにして運んでいる。
 天和や沙和はそこまで本気というのではないのか、余裕を持って進んでいた。翠が飛ぶように進んでいるのはさすがというべきか。
 麗羽や美羽は、無理な姿勢で止まったりする自分がおもしろいのか、明るい笑い声を響かせていた。
 ちなみに紫苑に確かめてみたところによると、髪の毛に関しては揺れてもいいらしい。そうじゃないと、麗羽と美羽、それに翠も揺れが収まらずにすぐ捕まってしまうものな。
 話をしたかった翠も、いまは変な体勢で固まっている。とてもこれじゃ話し合うのは無理だ。
 まずは紫苑と話しておくとしよう。

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西涼の巻・第十三回:錦馬超、涼州の束ねとなるを決意すること」への2件のフィードバック

  1. 蒲公英の台詞で「たんぽぽ、荷物置きに来た」とあるけど「たんぽぽ、荷物を置きに来た」のほうが(文章的には)正しいのではないでしょうか?
    10月18日の「手裏剣戦隊ニンニンジャー」で「世界忍者戦ジライヤ」のジライヤがゲスト出演するとのこと。

  2.  文章としては仰るとおりですね。
     ただ、たんぽぽの性格を考えると、こうした言葉の抜けもあってもいいのではないかと思ってこうしております。

     ジライヤってだいぶ昔のですよね。
     そんなのまで出てくるんですね-。色々とすごいなあ。

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