西涼の巻・第六回:袁公路、北郷の口中に蜂蜜を求めんとすること

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「七乃!?」
 美羽の声にはじかれたように立ち上がる七乃さんの手を取り、素早く室内に引き込んで、扉を閉める。
 七乃さんは両手を掴まれたまま、観念したようにうつむいた。本気で抵抗されれば俺一人じゃ押さえることもできないけど、この様子だとそれはないだろう。
「あ、あのっ。違うんです、その……」
「覗いてたよね」
 両手を持ち上げ、万歳の格好になった七乃さんに詰問する。
「あの、美羽様が遅いな、と思って、その、様子を見に……」
「嘘。七乃さん、美羽が来た直後から潜んでたの知ってるよ」
「え!」
 真っ青になった顔を上げ、俺を見つめる。その瞳に理解の色が浮かんだ。
「護衛してた恋さんが途中で出ていったのは、お嬢様と一刀さんを二人にするためじゃなくて……」
「そ。七乃さんがいるから大丈夫だろうと下がったのさ。なにがあっても、七乃さんは美羽を守るからね」
 小声で言うと、七乃さんの顔が諦めに彩られた。俺は彼女の手を離し自由にする。
「むぅ。七乃に覗かれておったのか」
「お、お嬢様、あの……」
「まあ……一刀と妾が愛しあっておるのを誰に見られても、別に恥じることなぞないが……。見られっぱなしというのも業腹じゃのう」
 泰然としている美羽に対して、七乃さんは珍しくうろたえている。このあたり、美羽はさすがの大器だ。
「人の情事を覗いたのじゃ。妾にも七乃の睦むところを見せてくれればおあいこということになろ?」
「おいおい」
 美羽の提案に苦笑する。七乃さんが覗きをしていたのは美羽が心配だからというのが一番先にあったろうし、ただ少しからかって終わりにするつもりだったんだけどな。
「なんじゃ、一刀とはいつもしておるのじゃろ?」
「いや、それは……そうですけど、でも、あの……」
「美羽。無理強いしちゃだめだよ」
 さすがに口を挟む。七乃さんを抱くことそのものは望むところだが、それを他人に見せるかどうかは別の話だ。見られて喜ぶ女性ならそれでもいいのだが……。
「むぅ」
 しょんぼりとする美羽。そんな主と俺の顔の間に視線を二度三度と往復させた後で七乃さんは決然と頷いた。
「美羽様」
「ん?」
「私と一刀さんがしているところ、見たいですか?」
 真剣な問い掛け。それに対して美羽は無邪気に頷いた。
「うむ。妾は七乃のはじめてを貰うたしの。その後、一刀にどう可愛がられておるのか、主として確認せねばなるまい」
 美羽の言葉はまっすぐで、おそらく本当に言葉の通りの責任感もある。だが、七乃さんが彼女を見つめる瞳は主従の絆を超えて、淫蕩に濡れているように思えた。
「じゃあ……しましょ、一刀さん」
 そう言う声も、また、熱くいやらしく響いた。

 七乃さんを愛撫してとろかせる必要はなかった。すでに彼女の体は熱く滾り、秘所からはとろとろと蜜が垂れ落ちていた。
「むぅ、七乃はなんで準備ができておったのじゃ?」
 七乃さんの頭の側に座り、俺と繋がっているところを熱心に見ている美羽が聞く。
「それは……ふわっ、あのっ」
「覗きながら、興奮していたから。だよね? 七乃さん」
 彼女を激しく突き上げ、いいわけを封じる。七乃さんは喘ぎ声を上げながらがくがくと頷いた。
「ふーん。そうなのかや、七乃?」
 美羽の目が意地悪く鈍く輝く。あ、これ、見たことあるぞ。桂花を苛める華琳そっくりの目だ。
「麗羽姉さまではあるまいし、妾が見られて喜ぶとでも思うたか?」
 にこにこと美羽は微笑みを絶やさず、辛辣な言葉を連ねる。その言葉が届く度、七乃さんの体にぞくりと震えが走る。俺はそのかすかな震えに快感を刺激され、腰と指の動きを加速せずにいられない。
「ち、ちが、私は! ああああ、かずと、さ、すこ、すこし、おさえっ」
 ぴんと立った乳首をつまみ、彼女の声を引き出す。抑えろと言いながらも、彼女はまったく俺の動く邪魔をしようとはしない。
「それとも、妾が一刀に貫かれ、鳴いておるのを、愛されておるのを見て、己の快楽としておったか?」
 囁くように続く美羽の言葉。それほど麗しく響く彼女の言葉を俺はそれまで聞いたことがなかった。あまりに凄艶で妖しいその美羽の言葉が七乃さんの快楽を引き出していることが、触れる場所全てから伝わってきた。
「わた、私は!」
「妾の処女の証を奪った同じ陽根で突かれて、そのように享楽の声を上げることを望んでおったのじゃろ? 違うか、七乃よ」
 もはや、七乃さんの喉からは声も出ない。彼女の瞳はその主だけを写し、体は俺からもたらされる快感をむさぼっている。
「思う存分感じるがよい。妾を女にしてくれた太くて長いものが、いままさに主を貫いておるぞ」
 それが決定打になった。
「あああああああああっ」
 途切れのない嬌声を上げ、七乃さんは絶頂を迎えた。

「美羽」
 意識を失った七乃さんを前に、ちょいちょい、と手を動かして呼ぶ。
「ん」
 俺の横に来た美羽を抱き寄せ、口づける。その途端跳ね上がった俺のものに反応したのか、七乃さんが呻きを上げていた。
「しかし、美羽は七乃さん相手にはすごい意地悪なんだな」
 そう言うと、無邪気な仕種で首をかしげる美羽。
「七乃は、妾の意地悪なところが好きと言うておったのじゃ。じゃから、たっぷり意地悪をしてやるのが優しさというものであろうと思うたのじゃが、いけなかったかの?」
「いや、七乃さんは喜んでたけどね」
 ほんの少しだけ、仲間外れにされた気分があったけど。
「次は一刀が意地悪をしてやったらどうじゃ?」
 ふむ、それもいいな。
「じゃあ、二人で七乃さんを苛めちゃおうか」
「おー!」
 元気に腕を振る美羽に笑みを見せながら、俺は、ぼんやりと覚醒し始めた七乃さんに挑みかかるのだった。

「こんなことになるなんて……いえ、薄々予感してたような気もしますね」
 七乃さんは俺にもたれかかり、彼女の膝の上で丸まる美羽の頭をなでながら呟いた。美羽自身はすーすーと規則正しい寝息を立てている。
「最近、お嬢様を政務の場に連れて行く時、華琳さんの真横に並ばせないよう気をつけているんですよ」
「ん?」
「ほら、背のほうが……」
 言いにくそうに口籠もる。魏の勢力圏内で華琳の背の話をするのはたしかに憚られる。
「あー……」
「特に、高い沓を履いているから、下手をすると……。確かめてみたことはありませんけどね」
 それほど大きくなっていたか、とまるで黄金の毛布に包まれているような美羽を見下ろして感慨に耽る。俺などより、七乃さんのそれはもっと深いものだろう。
「一刀さん」
「うん」
 不意の呼びかけ。顔の見えない七乃さんの雰囲気に、背筋が冷たくなった。
「わかってるとは思いますけど、お嬢様を裏切ったりしたら……殺しますよ」
「ああ」
 そんなことになったなら、殺されてもしかたないと思う。だが、そんなことにはならない、と確信を持って言える。だから、俺は、七乃さんにもそんなことにはならないよ、と声に出して答えた。
「俺は美羽も七乃さんも愛しているんだから」
「もうっ」
 腿の肉をきゅっとつねられる。
 結構痛い。
「でも、そういうことなんでしょうねえ……」
「え?」
「一刀さんが、美羽様を裏切るような人だったら、私が手を下すまでもなく、もうとっくに死んでいるだろうってことですよ。政治的にも、文字通りの意味でも」
 真剣な声音。そして、彼女の言うことはとても正しい。
「はは、物騒だな」
「そういう物騒な世界にどっぷりと浸かってるって自覚、あります?」
 少し心配そうな声が、かえってつらい。しかし、彼女にしてみれば、いや、俺を思ってくれている人たち皆が、そのことを心配してくれているような気がした。
「……その質問はちょっと痛いな」
「自覚している『つもり』はあるみたいですね」
「ああ。ただ、たまに頭と体がついてこなくなる」
 小さく溜め息をつかれた。
「まあ、いまはそんなところですかねー」
 失望でも、諦めでもなく、まずは安堵の息。
 あくまで、いまのところは。
「そう悪しざまに言うてやるな、七乃」
 不意にかけられた声に、俺も七乃さんも硬直してしまう。当の美羽は半分眠っているのか、瞼を開こうとせず、七乃さんの膝の上でごろごろ動き回りながら言葉を続ける。
「昔、妾がほんの小さな子供じゃった折のことじゃ。城内で、見慣れぬ小生意気な女子に会うたことがあった」
 突然にはじまる昔語りに、俺たちは聞き入るしかない。
「ひとしきり遊んでやった後、そやつはな、自分はいずれ天下を取るとぬかしおった。妾はそこで親切にも言うてやったのじゃ。『妾のような子供一人、友とできぬに、天下など片腹痛い』と」
 くすくすと美羽は体を震わせて笑う。
「ふふん、あれは、いま思えば孫策だったのであろ。いま、あやつがそれを覚えているかどうかもようわからぬがのぅ。……七乃。一刀は三国にたくさんの友がおるのじゃ。まずはそれだけで充分じゃ。そうじゃろ?」
 雪蓮と美羽か……。雪蓮もその頃は若かったのだろうな。小さな美羽に見透かされるくらいに。
 いまは、雪蓮も俺の友で、大事な人の一人。
「そうですね。美羽様」
「うん、そうなのじゃ……。一刀は、きっと……。あふ……」
 むにゃむにゃと何事か呟きながら、美羽は再び眠りの園へと帰っていく。その満腹の猫のような満足そうな寝顔を見ていると、段々と体の力が抜けていき、七乃さんと俺も、彼女と同じように眠りの国へと誘われていくのだった。

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西涼の巻・第六回:袁公路、北郷の口中に蜂蜜を求めんとすること」への4件のフィードバック

  1. 誤字報告を。先ずは「黄巾の乱はもう起きない、か」→「黄巾の乱はもう起きない。か」ここは、句読点(、)より句点(。)の方が締まりが良いのでは? 続いて「ええ。風たちが起起こしません」ですが「ええ。風たちが起こさせません」ですね。「起こしません」では風たち(この場合、三国同盟かな?)が乱を起こす事になります。
    処で、前回(西涼の巻・第5回)の最後の場面で風が歌っていたのは「合言葉は・・・ぷにぷにぷー!」ですか?

    •  コメントありがとうございます。
       まず、第五回の歌は仰るとおり、ぷにぷにぷーのつもりですが、歌詞を出すのはまずいよなあということで、ぼやかして書いておりますw
       あの歌かわいいですよねえ。上手いしw
       誤字報告のほうもありがとうございました。なおしておきますです。

  2. ああ、やっぱりキャラソンでしたか(笑)
    風ちゃん好きには、ニヤリとさせるネタですね。

    ニコ動で、聴いたことあるけど、キャラコレ!ってやつで
    風と稟の踊り付きだったのが面白かったな~。
    稟のパートで風が居眠りするので、この話ではフルで演ってたと思うと、
    稟が居なくて大変なのも納得。

    あと、華雄。それ以上いけない(笑)

    •  歌うだけじゃなくて踊りもとなると大変ですよねー。
       特にダンスは体が小さい人は振り付けが大きくなる傾向にあるので、風は大変でしょうw
       恋姫のキャラソンは楽しいのが多くてよいです。
       風と稟のキャラソンについては、中の人たちが歌うことに慣れてるのも大きいですなw

       華雄さんは、自分の声が鈴々に似てることにも気づいてしまいそうなお人。

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