西涼の巻・第四回:北郷、漢中の都にて祭りに出くわすこと

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 成都から北上した先にある漢中の都市南鄭(なんてい)はいままさに祭りの最中であった。
「なんだか……すごいな」
 郊外にある丘に馬を進めて見下ろすと、その盛況さがよくわかった。
 各所で楽の音が響き、人々はいくつもの人だかりを作り、あるいは練り歩き、街全体がわきたつようににぎやかだ。
「ええ、城壁の外にまで旅芸人たちの小屋が並んで……はて、白馬義従はじめ兵たちの天幕をはる場所があるでしょうかな?」
 俺の横に馬を並べ、同じように眺めている子龍さんがそんな心配をするほどの盛り上がり。
 彼女の言う通り、城壁の外にも種々雑多な小屋がかけられ、そこで芸をする者、それを見る者が入り交じり、活況を呈している。
 兵たちを含めた一行のほとんどを丘の陰で待機させておいてよかった。いきなりあの中に武装した兵たちが踏み入ったら恐慌を来していたかもしれないからな。
「使いが戻って来たら、守備の将がそのあたりは案内してくれると思うんだけど……」
 洛陽や成都のような大都市なら、兵の千や二千、城の中に収容できるのだが、この南鄭で余分な兵の宿舎がそれだけあるかどうかは怪しい。
 その場合は用意してきている天幕をはって過ごすわけだが、あまり都市と離れたところに設置すると、兵たちから不満が出る。
 彼らとて、休みがてら街で遊びたいという気持ちくらいあるのだ。街と離れていると、それだけ遊びに行く機会が減ってしまう。
「まあ、しばらくは待つしかありませんな」
「ところで……。紫苑と仲直りした?」
「ん? ああ、仲違いしたと思われておりましたかな?」
 成都を発つ前からずっと気になっていたことを聞いてみる。だが、なんでもないことのように微笑み返された。
「いや、模擬戦の後の改めての打ち合わせにも顔を出さなかったからさ」
「少々腹が立っておりましたからな。抗議のために欠席しましたが、それ以上は特に気にしておりませんよ。紫苑ともうまくやっております」
「そう、ならよかった」
 成都を発ってからの子龍さんは、翠と二人で白馬義従の面倒を見るので忙しそうだったから、果たして紫苑とどうなっているのか心配だったのだ。
「しかしながら……いかに自分がいない間、軍師殿たちが暴走しないようにとはいえ、あのようなことは感心しません。諫めるならば、他にもやりようがあるというもの」
 当の紫苑の口から、軍師二人を諫められる要員として、子龍さんの名前が挙がっていたのは黙っておくとしよう。
 止められるのに、止めてくれないから……と注釈がついていたからな。
 しかし、子龍さんと、桔梗と紫苑の二人の年長組を除けば軍師のことを諫められる人間がいない、というのは問題でもある。
 もちろん、最終的な意思決定権は玄徳さんはじめ三義姉妹にあるだろうし、その意味では暴走の懸念は狭い範囲に限られるのだが……。
 だが、もっと恐るべきは、あの二人の思考が強固に同質化していることだろう。
 ある局面に対する方策で、よほど打てる手がない限りは、魏の三軍師や呉の三人の意見が綺麗に揃うことはあまり想像しにくい。
 だが、孔明、士元の二人に関しては、ぴたりと揃ってしまう気がする。
 そこが、強さでもあり、紫苑が大芝居を打ってまで牽制する必要を感じた部分でもあるはずだ。
「まあ、朱里に雛里も頭が良すぎるが故に、時折……。お? なにかきますぞ」
 見れば、城門からなにか大きなものが南鄭の兵たちに囲まれて出てくるのが見える。
「本当だ。あれは、神輿……いや、山車か」
 正確に言えば、俺が知っている日本の山車とはまた違うものなのだと思う。
 だが、大きな飾り彫りがほどこされた車輪がついて、その上に塔のようなものが立てられ、派手派手しく飾りたてられたとくれば、その車を山車と呼んでも構わないはずだ。
 近づいてくると、上に乗った塔にも精緻な彫刻がほどこされ、様々な物語や伝説の場面が描かれているのがわかる。
「やっほー。一刀ー」
「ひさしぶりじゃのー。一刀ー」
「あー。どうもー」
 その塔の前面、玉座のようにしつらえられた三つの椅子に座っていた女性たちが、俺の姿を認め、それぞれに声を上げる。一人なんか、椅子に乗ってはねまわりはじめちゃったぞ。
「地和に、美羽、それに七乃さん!?」
「おやおや、熱烈な歓迎ぶりですな」
 地和がいるのはわかる。しかし、美羽に七乃さんはなにをしているのだろう。
 そんなことを考えていると、山車は丘の麓に止まった。さすがに緩いとはいえ傾斜を登ってくるのは無理があるようだ。
「ほら、呼んでおりますぞ。紫苑や呉の面々には私から伝えますから、行ってやってはいかがか?」
「ああ。そうだな。頼む」
 ぺこっと小さく子龍さんに頭を下げて、俺は、そんなに急ぐ必要などありはしないのに、馬の腹に一打ちくれ、麓へ駆けだすのだった。

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西涼の巻・第四回:北郷、漢中の都にて祭りに出くわすこと」への4件のフィードバック

  1. 脱字報告を。蓮華とシャオによる喧嘩のシーンにて「あー、ひどい。いつの間に入ったの! シャオに勝手に入るなんて横暴……」と有りますが、「あー、ひどい。いつの間に入ったの! シャオの部屋に勝手に入るなんて横暴……」では? 蜀陣営は将が多くとも軍師の少なさ(詠とねねが居ないと二人だけになる)が大きな問題ですよね····まぁ、呉は将の少なすぎるけど。改めて考えてみると魏が一番バランスのとれた陣営だな····と思う今日この頃。

    •  ご報告ありがとうございました。
       ご指摘の部分、少し考えまして、シャオの場合、部屋に入ることよりも、自分に断りもせず入ることに憤るかなと思ったので、「シャオに言わずに勝手に入るなんて~」というように直しておきました。

       魏はバランスいいですよね。
       まあ、華琳様が人材マニアですからねえ……。
       しかもほとんどが自分で集めてるわけで、さすがと言えます。英雄譚で加わる武将とかまで考えに入れても、魏がやっぱり突出しちゃいますよねえ。

  2. 更新お疲れ様です。
    英雄譚で桂花ストーリーがあるってことで、まとめの方で玄朝秘史を読み返していたんですが、、、桂花とのイチャイチャがないってことに気付いたんですが。。

    桂花がお嫌いということではないですよね?

    •  桂花さんだけでじゃなく、魏勢は、政治や軍事で物語を動かすほうに活躍してしまって、なかなかいちゃこらを描けていないんですよね。
       これは反省点です。できれば、どこかでエピソードを挟めればと思ってます。
       桂花さんは華琳様絡める形になりがちというのもあるんですが。

       あ、桂花さんはかなり好きですよ。
       閑話も最初に桂花さんを書いてますしね。

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