洛陽の巻・第十五回:謀士賈駆、助けを求めて北郷に降ること

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 意識が夢の海から、浮上する。
 下半身から、なんだか温かくて心地よい感覚が流れ込んできていた。
 まだ開ききらない目をこすりながら首だけ上げて下半身を見ると、淡い髪の美貌の主が、俺の股間に顔を埋め、無心に俺のものをなめしゃぶっていた。
「秋蘭?」
「じゅるっ。おはようございます、ごしゅじんさま」
「なに……してるの?」
 まだぼーっとした頭で尋ねる。その間も秋蘭の指と舌は俺に快楽を送り込み続けている。
「ずっと舐めていろ、と命じたのは、あむっ、かず……ごしゅじんさまですよ?」
 ああ、昨晩は、華琳が奴隷モードだったんで、春秋姉妹もそれに倣っていたんだったな……。女王様モードだと、秋蘭も苛める側にまわるくせになあ。春蘭は責めるの苦手だけど。
 彼女のもたらす快楽が、俺の脳に突き刺さるように走る。それに応じて、俺のものが痛いほど硬く膨れ上がっていく。
「ああ、硬くなって……。やっぱり眠ってらっしゃる時よりいいです」
「……一晩中?」
「もちろん。ごしゅじんさまの命令は絶対」
 秋蘭は、ご主人様と言う時、なぜか妙に舌足らずになる。それがとてつもなく甘美で、俺のものはそれに応じてびくびくと震えた。その反応に嬉しそうな顔をする秋蘭。
 俺の顔を見上げた彼女は、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「そんな顔をするな。安心しろ、私は今日は夜番だ。それくらいは考えているさ」
 口調を普段に戻して、秋蘭が語りかけてくる。それを聞いて申し訳なくなってしまう。ちゃんと色々考えてやらないといけないのにな。
「だから、安心して楽しんで、ごしゅじんさま」
「ああ」
 普段とは違うふんわりとした空気で笑う秋蘭の頭をなでてやると、笑みで眼がなくなる。
 まるで悪戯好きの猫のようにくすぐったげに身をすくめ、再び俺のものをくわえこみ、舌を絡ませ始める。
 おそらく意図的に俺に聞かせようとじゅぼじゅぽと音を立て、頭を動かす秋蘭に身をゆだね、あたりを見回した。
 華琳と春蘭はどうしているのだろうと思ったら、寝台の端で二人抱き合うようにして寝ていた。
 その体は満遍なく俺の吐き出した白濁液と唾でぬりこめられ、てらてらと光っている。
 あーあ、華琳なんて、べったりと体と寝台の敷布に精液が張りついて、ありゃ起きようとしたら痛いぞ。
 間違いなく怒られる。
「俺が昨晩、何回くらい出したか、わかる?」
「私の中には三回っ、んんっ、です。あとはお尻に一回」
 昨晩のことを思い浮かべたのか、秋蘭の頬に朱が走る。
 昨日は、華琳の中には出してやらないという苛め方をしていたから、華琳には最後の一度しか出していないはずだ。
 その分、秋蘭と春蘭、それに華琳の肌に思う存分出したから……春蘭にも秋蘭と同じくらいとすると一〇回くらい?
 道理で精根尽き果てて落ちてしまうはずだ。
 笑顔と蕩けるような嬌声に包まれた記憶を心の中で弄ぶ。現実に与えられる刺激と相まって、俺の中の快楽が急激に深く強くなっていった。
「うっ」
 秋蘭の中で、ぐりん、と舌が巻きついたまま回転する。あまりの快感につい声を出してしまった。
「いつでも……お出しくださいっ」
 そう言うや、上下の動きをはやくする秋蘭。舌の刺激と吸いつく頬の肉のこすれあいで、腰がずーんと重くなり、射精が近づくのがわかる。
「くっ、秋蘭っ!」
 ちりちりと脳が焼き切れるんじゃないかと思えるくらいの快感が走り、精をほとばしらせる。長々と続く射精を、秋蘭はその口中に受け続けた。
 最後に残っていた精液も吸い出され、熱くたぎる彼女の口から萎え始めたものを抜く。
「ん……」
 飲み込むことをせず、口の中に留めている秋蘭。そう言えば、飲み込む前にいっぱい味わえというのも命じていたっけ。
「おいしい?」
 こくりと頷く。美味しいとは思えないが、しかし、好きな人の汗やなにやらは舐めていたいものではあるし、実際にそう感じてくれているのかもしれない。なにしろ、彼女の顔は官能でとろけているから。
「飲んでいいよ」
 こくこくと少々苦しそうながらも飲み干していく。最後まで飲み尽くした彼女の頭を、ゆっくりとなでてやった。そのまま倒れ込んでくる裸身を受け止め、二人抱き合って横になる。
 しばらくそうしてお互いの体温を感じあった後、息も整い、差し込んでくる日差しが気になってきたところで声をかけた。
「そろそろ、日常に戻るとしようか」
「そうだな」
 甘い女の顔から、武将夏侯淵の顔に戻りつつ、秋蘭が言う。その様子を見ていると少々もったいなくも感じるが、いずれ閨からは出ないといけないものだ。
「眠気覚ましに茶を淹れてこよう。一刀は華琳様と姉者を起こしておいてくれ」
「了解」
 軽く上着をひっかけただけで、茶を淹れに行く秋蘭のぷりぷりしたお尻を見送り、俺は一つ息をつく。

 刺客の襲撃以来、俺は華琳の私室に軟禁状態だった。
華琳が部屋に居ない時は、季衣か流琉のどちらかが必ず居て、さらに部屋の外には華雄と祭が入れ代わりで護衛につき、陰に隠れて明命と凪が交互に見張りを務めているという念の入りようだ。
 明命に関しては、完全に呉からの厚意だ。
 食事も酒も用意されるし、毎晩華琳、あるいは彼女のお相手の面々とも閨を共にできるのだから、まさにハーレム状態。……まあ、この場合、俺のほうが囲われているわけだが。
 ただ、閉塞感だけはどうしようもない。
 安全を図ってくれているのはよくわかるし、部屋に来てくれる人々は気を遣ってくれるしで、文句を言うわけにもいかない。まして、外を歩きたいなどとは。
 そんなわけで、俺は妙に爛れた毎日を送っているわけだった。
「華琳、朝だよ」
 まずは、華琳の腕を引いてみる。俺の吐き出したものがつくったのであろう膜が、こすれてはがれる。
「ん……」
 ぱちりと目を開け、覗き込んでいる俺の顔を見る。意識が明確になってきたのか、三度瞬きをして、その上体を持ち上げ始めた。
「なんかパリパリするわね。あ……一刀の、か……。ん、髪にはかかってない? 見てちょうだい」
 くるくるが少しよれた金髪の頭を俺に向けてくる。それを観察して、汚れていないことを確かめる。
「大丈夫、髪にはかからなかったみたいだ」
「よかった。髪につくと落ちにくいのよ。まあ、体についたのは、春蘭たちのも含めて、後で湯を張りましょ」
 側で寝ている春蘭の寝顔を、いとおしげになでる華琳。その動きに導かれるように春蘭の意識が覚醒に向かっているのか、小さく気持ちよさ気な声を出している。
「怒らないんだな」
「なに、怒ってほしいの? 自分でかけてくれって泣いて懇願したものを、怒ったりはしないわよ」
「あー、まあなあ」
 最後の方は半狂乱だったものな。いくらプレイとはいえ苛めすぎたかと思ったくらいだ。
「うーん」
 妙に艶っぽい声をあげて、春蘭が目をあける。俺と華琳の二人が注目していると知ると、見るからに顔を赤らめた。
「お、おはようございます」
「おはよう、春蘭。一刀、秋蘭は?」
「お茶を淹れてるよ。すぐ戻ってくるさ」
「そ」
 短く言って、のびをする。小さくあくびをするのもまた可愛い。
 春蘭のほうは、なんとなくぼーっとしているようだ。まだ、昨晩の奴隷モードが抜けていないようにも見える。
「華琳様、お茶が入りました」
 盆に乗せて四人分の茶を持ってくる秋蘭。朝の茶なので、聞香杯などない略式だが、ふんわりいい香りがしてくる。
「さあ、飲みましょ」
 そうして、俺たちは朝を過ごすために動き始めるのだった。

 あの後、たらいに張った湯で体を清め終えたあたりで流琉と季衣が朝食を持って現れた。流琉お手製の朝食は、季衣もいるためにボリュームもあってもう最高に美味しい。
「今日の饅頭は中身が野菜なのね」
「はい、いつも肉ばかりだと飽きるかと思いまして」
「肉もありますよー、春蘭さま」
「おお、こちらはまたずっしりときてうまいな」
 そんなことを言いながら俺たちはゆっくりと朝食を取る。ゆっくりと言っても、約二名はすごい勢いなのだが。
「さて、例の刺客の件だけど、一刀もいることだし、今日はここで進捗を確かめておきましょう」
 ほとんど食事を終え、後は、各自のお腹の調整という感じになった段で、華琳が宣言する。
 まず、秋蘭がそれに応じた。
「はい。まず、あの後、呉、蜀の協力も得られまして、いくつかの警備の穴を潰すことに成功しました。他国から教えを請うなど考えられなかった事態ですな」
「こんなところで、面子とか考えなくていいわよ。どうせ、あっちだっておおっぴらに言える話じゃないんだから」
「とはいえ、今回の賊の侵入とは特に関係ないでしょうな」
 むぐもぐとまだ頬張っている季衣がふと思い出したように尋ねる。
「あの賊はどこの出かとかわかったんですかー?」
「無理だ。死体は調べたがな。なにも出ていない。服の織り方に地域的な特徴はあるが、この都にない品ではない」
 残念そうに言う春蘭。
 だが、その姉に対して妹のほうは、賊の出自については気にも止めていないようだった。
「暗殺者は、まず最初に己を殺す。己を知る者も殺す。文字通りやるやつもいれば、理念としてやるやつもいるが、いずれにせよ手がかりは残さないのが鉄則だ」
「ほへー」
「大変なんですね、暗殺者さんも」
 流琉の感心は微妙にずれている気もするが、暗殺という稼業を生きる糧にするとなれば、そうなってしまうのだろう。果たしてどれほどその需要があるのかはわからないが……。
「そこまで出来て、ようやく一流半。でも、部屋に忍び入るまで明命に気づかせないとなれば、まさに一流ね」
 うんうん、と頷く一同。その中で、季衣だけが妙な顔をしている。
「でも、そんなに強くなさそうでしたよね。ばっさり切られてましたし」
「季衣、暗殺者は我等のように強い必要はないんだぞ。完全に気配を消して近づけば、たいていの者は気づかぬまま殺されるからな。まあ、私ならそんなことしなくても、真正面から真っ二つだが」
「あ、そっかー。獣といっしょですね。近づいて一撃で仕留めるのが得意で、反撃されたら大変なんだ」
 季衣の反応にうむうむと頷く春蘭。そりゃあ、季衣や春蘭が相手を倒そうと思ったら、気配を殺すより、そのまま突っ込む方が早いものな。
「うむ、しかしあの程度でも、一刀一人なら危なかったな」
「よかったですね、兄様」
「一刀一人の夜がどれだけあるかしらねぇ」
 華琳がにやにやと聞いてくる。
 失敬な。俺だって独り寝の夜だって……。
 えっと……うん、あんまりないけど。
「とはいえ、一刀は武将の中では与し易い相手なのは確かね。そういう意味では、一刀を狙ったのかどうか、という疑問もあるわ」
「え、兄様が狙われたんじゃないんですか?」
「狙う相手の一人だったのかもしれん、ということだ、流琉」
 秋蘭の言葉を聞いて、流琉が考え始める。周りは彼女が答えを出すのを待っているようだった。こうして後進を育てていくんだなあ、となんだか感心する。
「……魏の弱いところ、たとえば、桂花さんたちとかですか?」
「惜しいわね。軍師たちには、それぞれ子飼いの密偵がいて、彼女たちを守っているわ。命の危険よりも、謀の秘密を護る必要が常にあるから。そうね、弱点という意味では美羽かしらね。麗羽も本人は危ういけど、なにしろあの二人がいるし」
 斗詩と猪々子は個人的な強さだけで言ってもかなりのものだし、二人そろってならよほどの相手でもない限り撃退できるだろう。七乃さんはさすがにそこまでは及ばないか。
「袁紹も一人の時を狙われればもちろん危ういでしょうな。ああ、そうそう、一刀。袁家の五人はいままとめて一室に配置している。安心してくれ」
「あ、そうなんだ。ありがとう」
 実は少し心配していたんだよな。普段は俺が蜂蜜水を差し入れに行ったり、祭が美羽をからかいに行ったりして様子をみているけれど……。いまは祭も俺の護衛につきっきりだからな。
「いずれにせよ、そういう弱点のうちの一つが一刀なのは間違いないわ。魏を攻撃するにはうってつけね」
「じゃあ、その……。桃香さんとか、雪蓮さんたちが……?」
「それはないだろう。俺も一応考えてみたけどさ、それこそ明命なら跡も残さず始末できるし、蜀にしたって、諸葛亮や鳳統がこんな危険性の高い策をしかけるとは思えない」
「あら、一応疑ってはみたのね」
 華琳の賞賛なのかよくわからない笑みに、俺は肩をすくめる。
「考える時間だけはあるからな。まがりなりにも見知った相手に命を狙われると想定するのは気分がいいことじゃないけど、逆に早くその可能性を潰したかったからね。まじめに考えたよ。どう考えても、これは周瑜や諸葛亮の策じゃない」
「断定するからには根拠があるんでしょうね?」
 既にその程度は三軍師と共に検討しているだろう魏の覇王にわざわざ説明するのは口はばったい気がしたが、ここはしかたない。
「さっきも言っていた通り、刺客はなんの出自を示すものも持ってなかったんだろう? これがおかしい。たとえば、誰か武将が殺されていたとして、そこにどこかの国に特徴的なものが残されていたとしよう」
「普通はその国を疑うな」
「もしくは、その国を疑わせるための他の国のさしがねとか……」
「その国に嫌疑をかけさせようと他国が画策したと、その国が装っていることも考えられるな」
「え、えっと。よくわかんないや」
 口々に出る予想に、季衣が目をぐるぐるさせる。俺は、笑って彼女の頭をなでてやる。
「そう。こうやって、混乱もさせられる。もちろん、その国との仲は険悪にならざるを得ないよな。なんにせよ、そういう色々な効果を出せるのに、今回そういう仕込みがない。純粋に殺しに来ている。俺が邪魔で排除したいだけなら、冥琳たちならもっと別のやり方が可能だ。暗殺は失敗する可能性もあるし、彼女たちが画策するには少々非効率だ」
 暗殺とか刺客とか口にするたびに、あの夜のことを思い出してぶるっと震えが走るが、それをなんとかおさえつけ、論を展開する。
「悪くない読みね。それだけ?」
「いや……明命に気づかせなかった点では、確かに賊は一流だったと思うんだ。でも、なんとなくひっかかるんだよ。いくらなんでも警備全てを抜けられるだろうか。人じゃなくて、カラクリ仕掛けだって多い。他の武将も多くいる」
 続けなさい、という華琳の仕種で、みんなが俺の方に注目して居住まいをただす。そうまでされると緊張するのだが……。俺は、資料にしていた紙束を持ってくることにした。
「この部屋にきてから、警備の資料をたくさん用意してもらって、それを丹念に見ていたんだけどね」
 ばさばさと資料をまとめながら卓に戻ると、食事は片づけられ――季衣だけ肉まんをいくつか確保している――皆の席に茶が用意されていた。
「まず、この城の警備だけど……」
 そもそも、洛陽の城内という場合、三つの意味がある。
 洛陽は広大な都市だ。周辺部には、田畑や下級市民の家が広がる。これらも人や馬を避ける程度の柵や壁で囲われているが、これは『洛陽』ではない。洛陽と呼ばれるのは、兵がその上に立って守備することができる城壁で囲まれた地域をいう。
 これが一番広義の城内だ。
 その中にも田畑や牧畜場、商人街や、官吏の住む住宅街など様々な地域が包含される。そして、その中に堅牢な城壁でしきられた宮城が立つ。これが、俺たちのいる城。二番目に広い城内。
 宮城の中には、武将たちの邸宅や、練兵場などもあり、これもなかなかに広い。いくつもの宮があるが、その中でも最も奥まった場所にあり、最も伝統ある宮に、帝と皇妃が住む。これを内宮と呼び、最狭義の城内となる。
 城内の警備に関しては、魏の管轄では、季衣と流琉が率いる親衛隊、城門を中心とした衛士隊、警邏が主な見廻隊の三つがあり、さらに、三軍師の子飼い集団――桂花の司書団、稟の測量隊、風の輜重陣――が各部署に紛れて目を光らせている。
 問題なのは、漢朝の警備組織も重複して存在することだ。現状、内宮および後宮を守備するのは五営と呼ばれる五人の校尉とその下にある近衛兵。
 それらの部隊はどれも担当地域・時間が重複するように計算されていて、それぞれを補いあうようになっている。ただし、十日、あるいは十五日に一度、短時間ながらどうしても一つの部隊でしか担当できない場所が出てくる。
「で、ここ。ここだけ穴があけられる可能性がある。ただし、もちろん、条件はあるけど」
 図表を書いて説明すると、秋蘭が顔をしかめて俺の指先が示す警備の穴を見つめる。
「内部の協力者、か。この時間の指揮系統は……」
 四人が顔を見合せ、次いで俺のほうをじっと見る。予想通り、一人、華琳だけが冷静だった。
「うん、考えたくないんだけどね」
「屯騎校尉。文字通り、近衛騎兵を掌る役職ね。いまは、権限を縮小されて、内宮の警備が主だけれど」
「つまり、その……」
「朝廷の筋が濃厚でしょうね。あるいは至尊の座に居られる方の内意ということだって考えられるわね」
 場の空気が凍りつく。さすがに帝の名まで出れば慎重にならざるを得まい。
「でも、万が一そうだったとしても、糸をたぐってもそこまでは到達できないように出来ているんだろうけどな」
 おそらくこの中で、朝廷の権威を一番実感していないのは俺だ。だから一つの勢力として疑うことも出来る。もう一人、その権威を身に沁みてわかっていながら、相手として対することのできる少女が薄く微笑む。
「よく見つけたわね、一刀。ただ、風はもう三日前に見つけていたわよ」
「さすだがな。俺がかなうはずもないけど」
「どうせあなたのことだから、改善案もつくったんでしょう。見せなさい」
 そこまで読まれているか。少しはびっくりさせられるかと思ったんだけど、まだまだだな。
「ん、これ」
 紙束の中から、まとまった数枚を取り出して華琳に渡す。ざっと目を通し始めた華琳に、概要を説明することにする。
「簡単に言うと、もう一つ組織を増やす」
 その言葉に少々顔をしかめる華琳。確かに組織を増やせばそれだけ金もかかるし、そもそも安全対策に城に入れる人を増やすというのは本末転倒という部分もある。
「早合点しないでくれよ。その組織の長にそれぞれ五営を兼ねさせる。これまでの近衛は今回の件もあることだし、再教育ってことで、沙和の教練を受けさせて魏の組織に組み入れる」
「兄様、それは……」
 さすがに俺の提案の物騒さに気づいたか、流琉が顔を青ざめさせる。近衛部隊を城から排除するというのは、確かに少々過激ではあるが、指揮系統を統一し、風通しをよくすることが安全を護ることにもつながるのは間違いない。
「呆れたわ。朝廷に喧嘩を売るつもり?」
「あっちが売ってきた喧嘩だろ?」
 華琳の言葉には含み笑いが含まれていて、本気で呆れているとは到底思えない。どうやらお気に召したようだ。
「悪くはないわね。どうせ現任の五校尉は地位から下ろさざるを得ないもの。公的には洛陽の城内にいる魏の兵は私の私兵に過ぎないし、責任を取る者は必要だったから。その案に従うとすれば、後任人事を考えても前任者の首をはねるなんてことはできない。一刀らしい案ね」
 朝廷の力を削ぎ落とすことは、華琳の益にもなる。なんの理由もなく漢朝を責めるのは非難を招くが、今回のような失態を引き受けさせるにはちょうどいい。
「風たちの案ともあわせて検討させましょう。ただ、いずれにせよ朝廷を締め上げるには首謀者に近い者を捕える必要があるわ。こればかりは一刀に任せられないし……。発破をかける必要がありそうね」
 華琳が己の思考の中に埋没すると、場には沈黙が落ちた。季衣も落ちつかなげにもじもじしているくらいだ。
「正直、一刀が思うほど、あれは甘い存在じゃあない。一枚帳をめくれば、さらにその次に十枚の帳が……」
 言っている最中に、華琳は口をつぐんだ。疲れたようにため息をつき、ぱたぱたと手を振る。
「これ以上はまた今度にしましょう。まずは、首謀者に近づくこと。一刀は身辺に気をつけること。いいわね?」
「はっ」
「了解」
 それぞれに返事が返って来るのを、魏の覇王は頼もしげに見ていた。そして、思い出したかのように付け足す。
「ああ、そうそう。今日、詠と恋があなたと私に面会を申し込んでいるわ。後で迎えを寄越すからいらっしゃい。護衛といっしょにね」
「賈駆たちが? わかった」
 そうして、少し物騒な朝食会は終わったのだった。

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