俺が謁見の間に呼び出されたのは、助け出した霞や美羽と共に帰還し、文官に軽く今回の流れを口述してから、戦の汚れを落として服を変えている途中のことだった。
さっさと着替えて行ってみると、その場には霞、美羽、祭、華雄が揃っていた。
上座に座るのは華琳。その横には秋蘭が控えている。他の幹部連中はそれぞれ忙しいのだろう。
俺は、美羽と華雄にはさまれるような場所に立った。
「揃ったわね。皆、ご苦労だったわね」
ねぎらいの言葉に首肯する面々。桂花あたりなら、この言葉だけで小躍りして喜びそうだが、今日ここにいるのは華琳盲信というメンバーでもない。
「霞、袁術。あなたたちには褒美を送るわ。なにがいいかしら?」
「んー、うちは絶影もらえるんやろ? それで充分や。なんせ、積んできた荷物も完全には持って帰れへんかったし」
絶影に積んだ珍味の数々は、一部は賊に切り払われたりして失ってしまったらしい。それでも乾物などは手に入ったのだが。
「いいえ、絶影は長安からの往復への褒美。今回は無駄足でもしかたないと思っていたもの。少しでも届けてくれたのはありがたい限りよ。賊を切り抜けたことへの褒美は……。そうね、では、霞には酒を送りましょう。それでいい?」
「ああ、それはええな! 今度、大将がつくっとるっちゅう酒も味見させてもらいたいもんやわ」
華琳は酒づくりも研究しているらしく、噂は俺にも届いていた。たしかに彼女のつくる酒なら飲んでみたいよな。
「いずれ完成したら、ね」
「約束やで!」
ぱっと明るくなる霞の顔。しかし、その顔にはやはり疲れがにじみ出ている。帰り道、あの霞が馬の上でこっくこっくりしていたくらいだからな。
「袁術はどうしようかしら? 蜂蜜?」
「んー」
美羽の方はもう限界のようで目をしぱしぱさせていた。
「それより、七乃たちのほうが心配なのじゃ。できたら、七乃たちを迎える兵を出してほしいのじゃ」
「安心して、賊の残りを狩って、長安と洛陽の間を鎮めてくるよう春蘭と季衣を派遣したから。それに張勲たちに呂布が同行するよう、はからったから」
後で聞いたところ、呂布は長安にいて、今回の会合のために洛陽に向かう予定だったそうだ。そのスケジュールを調整して同道してもらうということだろう。
「呂布に夏侯惇か、それなら安心じゃ」
言った途端、美羽の体が傾いて、俺にもたれかかってきた。
「むむ……」
まだ意識はあるようだが、もうだいぶ眠りかけだ。それを見た華琳は、しょうがないという風に笑みを浮かべた。
「霞、袁術を寝所に放り込んで来てもらえる? あなたもそのまま休んでいいわ」
「あいよー。ほら、いくで」
「んー」
ひょいっと美羽の体を抱えあげ、霞は謁見の間から立ち去っていく。
その姿を微笑んだまま見ていた華琳は、なにか思いついたように頷いた。
「袁術には、今度蜂蜜入りのお菓子でも焼いてあげましょう」
「華琳殿手ずから?」
驚いたのか、祭が声をあげる。
「ええ、料理の腕はそれなりにあるのよ?」
たぶん、驚いているのはその部分ではないのだろうけど。華琳もわかって言っているのだから性質が悪い。
「一刀たちの番ね」
華雄、祭、俺の三人に向けて声をかける華琳に俺たちは揃って姿勢をただす。
「まず、一刀。霞を救いに出た行動は評価するわ。でも、内容がまずいわね。……秋蘭」
「はっ」
秋蘭は進み出ると、竹簡を一つ手にして話しはじめる。
「北郷の用兵の拙さについては私が指摘させてもらう。これは、霞たちからの報告もあわせて総合的に判断した結果だが、間違っている部分があれば訂正してくれ。
第一点。華雄と黄蓋を連れて出撃したこと。緊急時だったことを考えればいたしかたない。が、洛陽に稟と風、流琉が残っていたことを考慮に入れなければならない。
彼女たち三人を使いを出して探索することをしなかったのはなぜか。それが間に合わないという判断するにしても、後々、兵を連れての合流を依頼すべきだった。
これについては季衣も問題だな。
第二点。突入判断がまずい。
張遼隊の突破力に期待するのはいいが、己で鍛えた部隊でもないのに力を過信しすぎている。
さらに自分の居場所も悪い。
突破を期待するなら、鋒矢の先頭から少し後ろ、華雄のいたという場所の後ろに控えているべきだ。後ろに下がりすぎて、逆に危険を増大している。
第三点、これが最も拙い。
大将が戦闘中に気を失うとは何事か! それによって兵の損耗も変わるのだ。
……流れ矢は避け得るものではない。だが、第二点で指摘したように、危険の少ない位置取りというものができたはずだ。自ら混戦の中に入っていけるほど、北郷の武は頼りにできん。自覚しろ」
「言葉もない」
秋蘭が指摘した点はたしかに全て俺のミスだ。
特に稟たちを探すよう季衣に頼んでおかなかったのはいくら焦っていたからといって手落ちが過ぎる。
「だが、二百足らずの少数で千あまりの敵に粘ったのは、評価してやろう。
それからな……北郷、戦果報告は一〇倍にして提出するのが慣例だ。一〇〇という小勢ではあるまい。こういう場合一万と言っておくのだ」
実を言うと、その慣例は知っていた。だが、俺はそれに従うのをよしとするには抵抗があったのだ。
「いや、それじゃ、その後の判断とかしにくくない?」
「しかし、慣例で皆がそうしている以上、かえって比較が……」
言い募ろうとした秋蘭に、華琳が口を挟んだ。
「それについては私も苦々しく思っていたの。この際、やめてしまわない? 秋蘭」
「うむぅ……。たしかに、このような悪弊、私とて好いているわけではありません。この機に実数を報告するよう改めましょう」
何事か書きつける秋蘭。
彼女のことだ。任せておけば、今後は実数での報告が徹底されるだろう。
「さて、秋蘭が指摘した通り、一刀にはまずい点が多々あったけど、生きて帰った以上、今後改善してくれると信じているわ。そんなわけで、霞たちを救った功績と秋蘭のお叱りで帳消し。いいわね?」
「ああ、ありがとう」
きちんと悪いところを指摘してもらえた上におとがめなしなんて本当に感謝するしかない。俺はあらためて秋蘭に頭を下げた。
秋蘭が、無表情に見えながらも長いつきあいの者にだけはわかる照れくさそうな顔で、小さくぱたぱたと手を振った。
「さて、華雄、あなたには張遼と共に私の下で働いてもらおうと思っていたのだけど。曹魏ではなく、一刀に降るのでよいの?」
「文遠と轡をならべるのは望むところではありますが、急なことだったとはいえ、私は選択を間違えたとは思っておりませぬ」
華雄は華琳を真っ向から見据えてそう言った。
なんだか俺は胸が熱くなる。でも、実際には俺にしてからが華琳から仕事をもらうのだから、直に仕えたほうがいいと思うんだけどな。
華琳は華雄の答えを面白そうに聞いていたが、一つ頷いてみせた。
「そうか。ならば、黄蓋」
華琳と秋蘭は複雑そうに祭を見る。
特に弓で彼女を射た秋蘭は色々思うところがあるだろう。
「記憶が戻ったそうね?」
「はっ。あの折の約束通り、華琳殿とお呼びさせていただいております。どうか儂の預けた真名を今こそ」
「よく生き残ったわね、祭」
「あの手応えで生きているとは思わなかったぞ」
「ははっ、夏侯淵殿の矢は見事に肉を突き通しておったわ。たしかに約束、果たしてもろうた。じゃが……猫は九つの命を持つといいますが、儂は二つ持っておったようですな。一つ目は文台様の御許にまいりました。二つ目は、旦那様に捧げさせていただきたく」
はあ、と華琳があきらめたようなため息をつく。
「あなたも一刀に仕えると?」
「旦那様に仕えることは、華琳殿の力にもなり、ひいては、この国、さらには呉の民の力となると信じておりまする」
祭と華琳の視線が絡み合い、何事かを交わしあっているような気がした。
「いいでしょう。ただし、私も一刀を客将としている身。養っている立場として、一つだけ条件を出させてもらうわ。
名を変えなさい」
「名を?」
意外そうに聞き返す祭。
改名か……。
風も改名したというが、俺には、それがどれほどの意味があるのかいまいちわからない。だから、口をはさまないでおいた。
そういえば、真名を変えたりすることは出来るのだろうか? 出来なさそうなものだけど。
「黄蓋という名は呉の武将として通りすぎているわ。生まれ変わったというならば、新たな名を用いるのが筋でしょう? 別に正体を隠せとは言わない。ただのけじめよ」
「ふむ、ごもっとも。それでは、以後、黄権と名乗りましょう」
あれ?
いま、なんかさらっとすごい名前を言わなかったか、祭。
いや、そりゃたしかに黄権も最終的には魏に仕えてるけどさ……。
祭のことだから、孫権からとっているんだろうとは思うけど。策はさすがに使うのに躊躇いがあるだろうし。
「華雄と祭には、一刀を救ってくれた褒美を出すわ」
俺の驚愕など構うことなく、華琳は続ける。
「ありがたいお言葉じゃが、旦那様にお仕えするのが我が務めならば、そのようなものは無用にお願いいたす」
「私も北郷様の配下に降りましたれば」
魏の王者はその言葉に優しい笑みを浮かべた。
「では、言い換えるわ。個人的な礼をあげたいの。もらってくれるかしら?」
「それならば……」
「私も押して断るほどではありませんな」
二人は頷いてみせる。
「祭は、赤壁で愛用の武器も焼け落ちたでしょう。弓でよければ……」
「いえ、華琳殿。生まれ変わりましたからには、武具も変えようと思いますのじゃ。鉄鞭なぞ所望できれば」
一瞬だけ、たしかに秋蘭の顔が痛ましげに歪んだのを俺は見逃さなかった。やはり、眼か。間合いの短い武器に変えることの意味を、彼女はなによりも痛感しているはずだ。
「そう。たしか、武具庫に覇竜鞭とかいうのがあったはず。後で用意しておくわ。それから、華雄には七星刀を」
「おい、それって……」
「董卓が残していったみたい。この間見つけたのよ」
まあ、元々は華琳のもの……なのか?
この世界では、どうなのだろう。よくわからないけど、董卓の遺臣の華雄が持つのなら、意味もあるだろう。
俺は目線で問いかけてくる二人に対して軽く頷いてみせた。
「では、ありがたく」
「ちょうだいいたしましょう」
「では、三人とも、ゆっくり休みなさい。下がっていいわ」
その言葉を合図に解散となった。
謁見の間を出てしばらく行くと、視線の先に黒い髪が揺れていた。
「冥琳」
その名を呟いたのは、俺だったか、それとも祭だったか。
「旦那様、今日はこれにて失礼させていただくことになりますな」
「ああ、ゆっくりしておいで」
祭は俺の言葉を背に、冥琳の立つ場所へと進んで行く。彼女も冥琳も俺たちがいることなど忘れたかのように、一度も振り返ることなく通路の向こうへ消えて行った。
「さて、疲れたな」
「おい、私はまた監房に戻るのか?」
「あ、しまった」
華雄の問いに、彼女に部屋をあてがってもらうのを忘れていたのに気づいた。
いずれは洛陽の街に邸でも用意してやらねばならないが、将として扱われるのだから、城内に部屋の一つももらっておくべきだったのだ。
「……しょうがない。俺は執務室で寝るから、今晩だけ俺の部屋で我慢してもらえないかな」
「ん……。まあ、いいか。話もある」
「話?」
華雄は俺の問いに重々しく頷いただけで、部屋につくまでなにひとつ言葉を吐かなかった。
「酒、呑むか?」
「いや。……ああ、いや、すまん、もらおう」
なんだか今日の華雄は珍しく歯切れが悪いな。そう思いながらも、用意してあった二つの杯をならべる。客用の杯も買い足さないといけないな。
「話って?」
「ん……」
華雄は言葉を探しているようで、口を開きかけては閉じるというのを何度も繰り返していた。
俺は、その間に、二杯三杯と酒をあけてしまう。疲れていると、どうしても進むものだ。
「俺に仕えるとかそういう関連の話?」
「いや、それはもう終わったろう」
「そっか」
一安心する。俸禄のこととか、頭の痛い部分もあるのだけど……。
俺たちは、しばらく差し向かいで飲み続けていた。酒で口がまわるようになるかはわからないが、ここまできたら一晩つきあったっていい。
「真名とはなんだろうな」
不意に、華雄が呟いた。
「本当の名を呼ばせぬことで、名の持つ力を使われぬようにする。言い伝えとしての意味はわかる。しかし、それならば字があるではないか? 真名をわざわざつくる必要がどこにある? ただの習慣か? しかし……」
そこまで一気に言って、華雄ははっとなにかに気づいたように目を見開き、がくんと顔を傾けた。
「すまん、話をそらしているな。私は」
そらすといっても本筋がどこにあるか、俺にはよくわからないのだが。
「俺の世界にはない風習だからな、真名って」
「天とやらか。だが、ここでは、重要な風習だ」
華雄はやけのように酒をあおった。
興奮のためなのか、持つ杯が少し震えている。それでも俺はそこに酒を注いだ。
「知っての通り、私は文遠の真名を呼ばない。霞という名は許してもらっているにもかかわらず、だ」
ああ、そういえば、今日、戦場でそんな話を聞いたな。
「なぜだい?」
「武人に馴れ合いなど必要ない、そう言っていた。そして、自分でもそう信じていた」
どん、と机を叩く。
杯を持った手でそれをやったせいで、酒が思い切りこぼれた。
「だが、違うんだ、私は自分を騙していた」
黙って彼女の言うことを聞く。
最後まで喋らせてしまった方がいい。そう、俺のまだ酒に浸っていない部分が忠告してくる。
「私は、真名を呼ぶのが、怖い」
華雄は顔を上げた。その顔がまるで泣きそうにも見える。
「そして、真名を預けるのが、怖い」
もはや彼女の持つ杯は見るからに震えている。酒の表面がぴちゃりぴちゃりと揺れている。
「裏切られるのが……怖い」
ついにぱりん、と酒杯が割れた。
酒と器のかけらが、華雄の手に流れ落ちていく。
「おい、大丈夫か?」
「私の手は、血塗られている」
涙を流して、酒に濡れた手を見つめる人に、それは酒だ、などと言えるわけがあろうか。
「はじめて、真名を預けた人を、私は殺した」
もはやとめどなく流れる涙を隠すこともなく、華雄は独白を続ける。
わなわなと震える手を、もう一方の手で無理矢理押さえつけ、それでも震えるのが悔しいのか、彼女はおいおいと声を上げて泣く。
「私は、私は……卑怯者だ!」
「違う」
俺は思わず言っていた。
口をはさまずにいようと思ったのにこのざまだ。
しかたない。こうなったら突き進むしかない。
「卑怯っていうのは、信じるのをあきらめたやつのことだ。華雄は違う。信じようとして、もがいてるじゃないか。そういう人は、臆病かもしれないけど、卑怯じゃあない」
「はは……は……」
彼女の喉から漏れる嗚咽が、笑いに変わる。
血を吐くような笑いは、空気を切り裂いて俺に突き刺さるかのように思えた。
「この華雄を! この私を臆病というかっ」
「ああ。臆病だな。結構なことじゃないか。怖さを忘れて強くなれるか? 違うだろ? 大事なのは、怖くても進むことだろ。
いや、そこで逃げたっていい。逃走もまた闘争なんだ。卑怯なのは、そこに怖いものなんかなかったと自分を騙し、忘れてしまうことだ。目をつぶることだ」
いままさに俺はとてつもなく恐怖していた。
武人に向けて、臆病者だなどと言ってのけたのだ。
しかも、華雄は間違いなく強い。あの霞と同等――つまり、俺の首をひねることなど造作もない。
だが、同時に華雄はとてつもなく弱い。儚く消え入りそうな女の子なのだ。
だから、俺は怖くても、この場から動いてはいけない。
がたん、と音がした。
華雄が席を立ち、椅子が床に転がった音だ。
滂沱の涙を流しながら俺に近づいてくる華雄。彼女と俺の距離はたったの三歩ほどしかない。
二歩。
一歩。
華雄の力強い腕が俺の腕を掴んだ。
「お願いだ。……私を、私を罰してくれ……」
俺にとりすがり、床に崩れ落ちた華雄は小さな声でそう哀願したのだった。
俺には無理だ、そう言おうとした。
しかし、できるだろうか。
すがりつき、助けてくれと泣く娘に、俺は神様じゃないんだから罰することなんかできないと突きつけることが。
だから、俺は彼女の髪を掴むと、そのまま寝室まで引きずった。華雄は半ば放心状態なのか、呻き一つあげるでもなく、なすがままにされている。
その体を寝台に放り投げる。
「脱げ」
一声命じると、のろのろと指が動き、ほとんどつけてないような装備を外していく。
さすがに上下の下着だけになると羞恥心が出てきたのか、鈍い動きが、本当にとまっているような速度になる。
俺はなにも言わない。じっと彼女を見つめているだけだ。
どれほどの時が経ったのか。目尻に涙を浮かべつつ俺の顔を見上げる華雄は、じりじりと自らの下着に手をかけ……一気にはぎ取った。
その顔に朱が刺すのは、羞恥か興奮か、それとも怒りか哀しみか。
つんと尖った形のいい胸に手を伸ばす。なめらかな肌の感触。ぐっと指に力を入れると、押し返すほどの弾力。さらに力を込め、やわらかにつぶれていく感触を楽しむ。
一度だけ、彼女はいやいやと駄々っ子のような顔つきで首を横に振った。
それが、彼女が最初にして最後に示した唯一の否定の印だった。
だが、俺はそれを無視する。これは彼女の罪――おそらくは俺が知ることはないその罪の、罰なのだから。
彼女の釣り鐘形の乳房を思う存分こねくりまわし、むしゃぶりつく。
固く固く閉じこもった殻を開くように、その体をなで、さすり、もみしだく。
「ふ……くっ」
声が荒らげられれば、その度に指でつねり、爪を立てる。羽毛のように軽いタッチで快感を引き出した後で、その場所に歯を立てる。
「あ……かっ」
俺は彼女に混沌を与え続ける。
すなわち――音をたてて平手打ちした尻を、ゆっくりと舐めてやる。赤く染まった尻に塗りこめられていく唾。
すなわち――手の甲でゆったりと背をなで、指を一本一本なめしゃぶりつつ、乳房をねじりあげる。
すなわち――腋を舐めあげつつ、首を絞める。絞めながらのキス。手をゆるめては息を吹き込んでやる。
痛みで麻痺しないように。
快楽で我を忘れないように。
それは俺にとっても苦行だった。
何時間、彼女の体をいじり倒したろう。深更にはじまったはずの睦み合い――せめぎ合い――が、もはや、朝の光が差し込むほどの。
その間ずっと快感と苦痛を同時に与え続けられた華雄は、すっかり混乱して、まともに息もできていない。
「はひゅっ、かっ……」
それでもすっかり潤みきった彼女の秘所を指で割り開くと、びくり、と一度だけ体を震わせたが、彼女はなにも言おうとはしなかった。
彼女の中を削り抜くように侵入していくと、さすがにうめき声が漏れた。それとともに血がにじんでくるのがわかる。
やっぱり処女だったか……。
少しだけの罪悪感と共に、俺は彼女の中を突く。まだびっちりと俺のものを締めつけて動きにくいことなど構いもせず、ひたすらに彼女の中をかき混ぜる。
「かっ、かずっ」
「華雄……」
俺の名を呼びたいのだろう、華雄をさらに突き上げ、がくがくと揺さぶる。涙を流しながら、彼女は大声をあげた。
「一刀、一刀、一刀ぉおおお」
俺は、彼女の頬をなであげ、軽くついばむようなキスをしながら、彼女の中に存分に精を放った。
「すまなかった」
俺の上に重なるようにしていた華雄の呼吸がようやく落ち着いた後、彼女は開口一番そう言った。
「主にさせることではなかった」
「そう? 主従ってことじゃなく、俺は、華雄が俺の大事な女の子だと感じたからこそしたんだけど」
その言葉を聞いて、華雄はゆったりと俺の腿のあたりに足をからめてくる。
「ふふ……。霞に聞いた通りだな」
「なんて?」
「佳い男で悪い男だ、と」
褒められてるのかけなされてるのかよくわからない。
「それでは、最期まで責任をとってもらおうか」
「ああ、俺にできる限りは任せてよ」
そう請け合うと、彼女は俺の首に顎をのせ、しなやかな猫科の猛獣のように体を丸めた。
「私の真名は――だ」
耳元で囁く華雄の声を脳裏にしっかりと刻みながら、俺は、彼女と共に眠りに落ちた。