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洛陽の巻・第二回:黄公覆、生まれ変わりて北郷に従うこと

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「このこと、しばしの間は内密にしておいてほしい」
 冥琳は態度を公の場でのものにあらためてそう言った。
「というと?」
「孫策はじめ、私以外の呉の将へも黄蓋殿の無事を伝える事はやめてほしいのだ。少なくとも、三国の会談が全て終了するまで。蜀はもちろん魏の内部でもできる限り伏せていてほしい」
 冥琳はそこで言葉を一度きり、頭を振る。
「まあ、魏の重臣に関しては孟徳殿のご判断に任せるしかあるまいがな」
 正直、魏のメンバーは、宴席の準備でそれどころじゃないと思うけど。ただ、いま、他国の人間にそんなことを明かすわけにはいかない。
「理由は、聞かせてもらえる?」
「いいだろう。我が軍の将は祭殿……黄蓋殿に対してはなみなみならぬ恩義を受けている。はっきり言えば、彼女は我々の師であった人なのだ。文台様――伯符の母上の世代から仕えている宿将だからな。そんな彼女が生きていたことは当然喜ばしいが、あのような状態となればどうにかしてやりたいとも思うだろう」
「それはそうだろうね」
 俺だって霞や春蘭が記憶喪失なんてことになったら、なんとしてでも解決しようとするだろう。たとえなにもできなくたって、気もそぞろになるに違いない。
「そして、三国会談はいかに友好を深めるためのものとは言え重要案件も話し合われる大事な場だ。うちの者たち、祭殿にかまけてばかりいてもらっては困るのだ」
「ん……でも、それって、余計に冥琳が」
「北郷殿」
「……ごめん。要望は華琳に伝えておく。俺が預かっているから安心して」
 そう請け合うと、美周郎の顔が少し曇った。
「……そこも少々問題なのだが」
 小さな呟きが胸に突き刺さる。
「……やっぱり俺のこと信用できないかな」
「い、いやいやいやいや、違うんだ。一刀殿が信用できないなどということはない。本当だ。誓ってもいい! ただ、その伯符が……な」
 冥琳のあまりのあわてぶりにこちらのほうが驚く。
「孫策さんが?」
 うーん。孫策さん、そんなに俺のこと嫌っているのだろうか。確かに美羽との仲を無理矢理のように仲裁したという印象をもたれてもしかたないとはいえ……。
「一刀殿本人が問題、というわけでもないのだ。あなたの、その……『天の御遣い』というのが、孫家としては、難しい部分があるのだよ」
 そう言われてもピンと来ない。まあ、そもそも天の国だとか天界だとか言われがちだけど、俺の理解からするとパラレルワールドだからな。
 あの時手伝ってくれた人――あれを人と言っていいのかは疑問だけれど――は『外史』とか言っていたっけ。
「孫家は、文台様以来、武だけで国を拓いてきた。だから、実際は袁家の後押しあってこその孫家だなどと言われもするのだが……。孫呉が誇りとするのは、その地に生きる人々を守るべく備えた武だ。それ以外にはなにもなかった。だが、その武は曹魏の武によって覆された。――そのこと自体はいまはもはやしょうがないことと納得している。
 しかし、武で曹魏に負けたのみならず、天の後押しまであるのかと、天命を象徴する男まで曹操の下にいるのか、そう思う、思ってしまうのは、ある種しかたないところであろうよ」
 冥琳はそこまで言うと、やれやれ、という風に頭をふった。
「一刀殿、誤解しないでほしいのだが、伯符は……雪蓮は孟徳殿に嫉妬しているわけではない。ましてや、あなたを嫌っているわけではないのだ。ただ、納得できないのだよ。あなたという存在を」
「つまり、問題は、個人としての俺ではなく、天の御遣いと呼ばれる事実、ってわけかな」
 こくり、と頷く冥琳。
「うーん。そういわれても……」
 俺が好きでそれをやっているわけでもないし、いまは華琳だってそんな噂を流してはいないはずだ。もはや曹孟徳という人物はそんな箔づけを必要としていない。
「だから、一刀殿。できれば、この三国会談の間に、雪蓮とできる限り触れ合ってほしい。『天の御遣い』ではなく、北郷一刀という人を知れば、雪蓮も感じるところがあるはずだからな」
「まあ、仲良くなるのは大歓迎だし、話してみたいとも思っているから、それはいいよ」
「そうか、よかった」
 ほっとしたように笑顔を浮かべる冥琳を見て、俺は、やっぱりこの人早死にしないように気をつけてあげないといけないんじゃないだろうか。そう思うのだった。

 その後、冥琳は数日のうちに何度も俺たち――つまりは黄蓋さんの下に忍んできた。
 その度に、彼女にとっては珍妙な食事をしているのを多少不審がっていたようだが、黄蓋さんと話す方が彼女にとっては重要事項だったようだ。
 身構えた固さも徐々にほぐれ、歓談している黄蓋さんたちの光景は微笑ましいものであるはずなのに、なぜかどこか気にかかって、俺にはしっくりこないでいた。
 もちろん、冥琳とて昔と今の黄蓋さんの間のギャップで苦しんでいたろうし、黄蓋さんのほうは自分の知らない過去を知ることで大変だろうとは思うのだが、それだけではないなにかがあるようで……。
「おい、どうした」
 不意にかけられた声に、ここが華雄将軍の監房だったことに気づく。椅子に座れるようになった華雄は、俺の正面で卓についている。持ってきた夕食はすでに摂り終えたようだ。
 それにしても、この間までは歩き回るのも大変だったのに、すごい回復力だ。
「ああ、ごめん。ちょっと考え事をね」
「ふん、気楽なやつだ。囚人の前だろうが」
「華雄は、俺みたいに弱いやつは力ずくで相手にしたりはしないだろ」
 ふんっ、と大きく鼻を鳴らして返事が返って来た。
「確かにな、多少は武術もやってるようだが、私が相手をすれば一捻りだろうな」
「ああ、もちろん」
 自分が弱いことはよくわかっている。それでも一般の兵卒相手ならなんとか身を守ることはできるけれど。
 華雄はなかばあきれたように訊ねてくる。
「そんなので、よく曹魏の武将をやっていられるな」
「俺も本当にそう思うよ。みんなが支えてくれるからだろうな」
「よほど用兵がうまいのか?」
「いや、そういうのは、桂花――荀彧たちがいるし、張遼将軍もいるし、夏侯淵将軍だってうまい」
「ふむ、だが、必要とされている……か」
 華雄は顎に手を当て、じっと俺の顔を見つめてくる。なんだかくすぐったいが俺はその視線を真っ向から受け止めることにした。
 華雄の目の力はだんだんと強くなり、ついにじりじりと焼けつくようなプレッシャーを感じるまでになる。武人の目というのは、これほどに力を持つものだろうか。なにもかも見透かされているようにも思えてしまう。
「なにか、あるのだろうな。私にはわからないが」
 しばらく考えた後、己の中で結論づけたのか華雄は独りごちた。そのあっけなさに俺は少々拍子抜けする。
「そ、それでいいの」
「あたりまえだ。私は頭の才で生きているのではないからな。ただ、お前には文遠たちが信ずるに足るなにかがあるのだろう。そのことがわかれば充分だ」
「信じる、か」
「そうだ。道は違えたものの、文遠は信ずるに足る将だ。その張文遠がお前を信じているのならば、私もお前の才を信じる。だが、それがなにであるかはわからぬ。そういうことだ」
 俺が黙っていると、華雄は愉快そうに唇の端をもちあげると言葉を続けた。
「理を弄ぶものは、つい色々考えすぎるのだ。信ずるに理由はない。己が信じられると思えばそれは正しい答えなのだ。もし間違っていたならば、己が砕けるまでよ」
 からからと大笑する華雄の声はとても痛快で透き通っていた。

「腕がなまるから、鍛練用の道具をくれ、ねえ」
 華雄にそう言われて風にも相談してみたのだが、いまの時点で武器を持つことを許すのはあまりに危険だという結論に至り、俺はどうしようかと悩みつつ部屋への道をたどっていた。確かに、刃のついていない棒一本でも華雄レベルの武将に渡したらえらいことになる。
 まだ脚の方は完治していないようだが、俺が見る限り上半身は普通に動くようだし、鍛えておきたいという彼女の気持ちは理解できる。ダンベルみたいな器具があればいいんだけどなあ……。
 あたりはそろそろ宵闇が濃くなりつつある。完全に闇に落ちきるまでに部屋に戻ってしまわないとな。
「ただいまー」
 部屋に入ると、灯が一つもついていなかった。闇夜も見通せる季衣と眼が暗がりのほうが楽な黄蓋さんしかいないはずだからしかたないところだ。しかし、返事がないのはおかしい。
「あれー? 季衣ー?」
「旦那様、どうかおしずかに」
 抑えた声が、寝室から聞こえる。その声にしたがって抜き足差し足寝室に向かうと、案の定俺の寝台で眠りこける季衣と、その頭をいとおしそうになでる黄蓋さんの姿があった。
「寝ちゃったのか」
 ささやき声で訊ねると、黄蓋さんは軽くうなずき、季衣が寒くならないように寝具を調節して、本人はゆっくりと寝室から部屋に出てきた。
「お帰りなさいませ」
 寝室への扉を後ろ手に閉めて、黄蓋さんは深々と礼をする。そんなかしこまる必要はないと言っているのだが、こればかりはしかたないのだろう。
「うん、ただいま。季衣の面倒みてもらうことになっちゃったね」
 本当は季衣と俺が黄蓋さんの面倒をみてあげる立場なんだけどな。
「はい、あの娘はほんにいい娘御ですな。儂が落ち込んでいると察してか、元気いっぱい遊んでくだすった。寝顔もほんに可愛らしい。ああいう若者こそまさに国の宝じゃ」
「うん、そうだね。季衣はほんとうにいい娘だよ」
 元気いっぱい遊んだのはいつものことだろうけど。
 いや、案外気が利くところもあるから黄蓋さんの言う通りなのかもしれない。流琉といっしょにいるからなかなかそういう部分は目立たないけど。
 流琉は流琉でちょっと気をつかいすぎるところもあって心配なのだが。
「おお、申し訳ありませぬ。灯を用意しておりませなんだ」
「いや、黄蓋さん、大丈夫だよ」
 俺の制止を自分の目に気をつかってのことと思ったのだろう、微笑みながら、
「お気遣いありがたくおもいますが、儂にはこれがあります故」
 と差し出した黄蓋さんの手にはリボンのようなものが握られている。昼の光が辛いと聞いた冥琳が差し入れてくれた、薄布の目隠しだ。白糸で精細な刺繍がほどこされた美しい品だが、あまりに高価そうでもある。
「いや、今夜は月が綺麗だ。月明かりを楽しもうよ」
 実際に窓からは月の光が入ってきている。現代世界にいたころには信じられなかったほど、月や星の光というのは明るい。もちろん、それでも本を読んだりできるほどではないのだけど。
「旦那様がそうおっしゃるなら」
 目隠しを丁寧におりたたみ、木の小箱にわざわざ入れる様を見ると、黄蓋さんも少々もてあましぎみなのかもしれない。
「さあ、座ってよ」
 言いながら、俺は隠してあった酒の瓶を取り出す。普段飲むのはともかく、とっておきの酒は隠しておくものだ。そう霞に教えてもらった。
 勝手に飲まれるのを警戒するのはもちろん、雰囲気が出るというのだ。まあ、酒飲みの言うことなので半分くらいに聞いておくべきなのかもしれないが。
「さ、どうぞ」
 杯を用意し、二人分を注ごうとすると、黄蓋さんが瓶を横から奪った。
「旦那様、儂が注ぎましょう」
「そう?」
 逆らわずに注いでもらうことにする。月明かりの下、その動きはまるで影絵のようだ。なんだか幻想的にも見える光景に、俺は心をとらわれていた。
「ありがとう」
 そう言って杯を乾す。同じように杯を傾けていた黄蓋さんが、驚いたような顔をするのがわかる。
「これは……美味いですな」
「うん。美味しい」
 俺の時代の酒に比べると、こちらの酒の醸造や蒸留の仕方は発達しておらず、当然アルコール度数は低い。しかし、それがなんなのだろう。うまいものはうまい、それは間違いないのだ。
 まして、酌み交わす相手がいるならば。
 俺たちは、しばし無言で酒を注いでは飲み、飲んでは注ぎあった。
「旦那様」
「うん」
「儂は、自分が何者か知りたいと思うておりました」
「うん」
「周瑜殿は、儂を呉の宿将じゃとおっしゃります。なれど、そのようなことがありえましょうや。儂は孫子なぞ一つも知りませぬ。字を読めるのは幸いですが、それ以外に育ちを示すものなぞありません」
「……」
「こんなことを言うておかしいと思われるやもしれませぬが、心が震えぬのです。儂の武勇伝とやらを聞いても、呉の食い物や地勢を聞いても」
 ほう、と息を吐き、覚悟をするように、ぐいと大きく杯を傾ける彼女の姿を、俺は一つも逃さぬよう見つめていた。
「ご厄介になり、飯までたっぷり喰わせてもろうておる身でなにをと思われるでしょうが、しかし、儂は儂は……」
 つまる言葉を喉に通すように、酒を飲む。俺は、黙って彼女の杯に酒を注ぐ。
「儂はなにを信じればよいのでしょう」
 ようやくはきだした言葉に、俺はこう答えるしかなかった。
「俺を信じるのじゃ、だめかな」
 その後に続いた沈黙は、否定を意味しているようには思えなかった。杯を置いた彼女の手が膝の上で揃えられ、俺に談判するかのように正対する。
「儂は……」
 銀髪が月の澄んだ光にきらきらと輝く。艶のあふれる体が、俺のほうへとゆったりとたおれようとしていた。
「旦那様に拾われた、一人の女であってもいいのではないかと、そう思うておるのです」
 俺は、その熱く火照った体を、自ら抱き留めていた。

 黄蓋さんの――いや、彼女の肌はいつまでもなでていたくなるような、しっとりとして柔らかな手応えを伝えてきた。
 ゆっくりと彼女を抱きかかえ、卓の上に寝かせながら、その衣服を一枚一枚はいでいく。月明かりの下に、薄い褐色の肌が徐々に現れ出でる。
「儂のような老躯では、ご迷惑でありましょうけれど……」
「莫迦なこと言わないで」
 首筋に口づけながら囁くと、くすぐったげに身をよじる。その仕種が可愛らしくて、つい何度も繰り返してしまう。
「旦那様……」
 細められた目が、濡れたように光る。もっと間近で見たくて、俺は口づけを顔の側へと移動させていく。はあふと息をもらす唇の中で、赤い舌がちろちろと誘うようにうごめいた。
 唇を重ねると、静かに眼が閉じられる。脇腹をなでていた手を止めて、俺は彼女との口づけに集中する。ぷりぷりとした唇が押し返す感触が心地よい。
 舌先で唇をつんつんとつつく。ゆっくりと開いた唇の合間に舌を差し入れて、彼女の中に侵入する。
「んぅ……」
 歯の裏側をこすりあげると逃げるように身をよじる彼女を、ぎゅっと抱きしめてやる。探るように俺の舌にあててくる彼女の舌が焼けるように熱い。俺はその動きにあわせて舌をからませ、お互いの唾液をお互いにぬりつける。
「ふぅ……ぁ……」
 かすかな声が漏れるほかは、二人の息の音だけが部屋の中を支配している。
 いいや、それだけではない。このどくどくとうるさいのは俺の心臓の音。いや、彼女のそれか?
 二人の体はぴったりとくっつきあい、体温が交換されて、もう二度と離れられないように混じり合っているような気さえする。
 口の中にわざと泡立てた唾液を流し込むと、彼女は躊躇いもせずに嚥下する。それどころか、もっとくれとねだるように舌を差し入れてくる。
 一度唇を放す。少し心配げに、そして寂しげに見つめてくる顔に笑いかけて、横にある酒瓶を傾ける。抱き留めるようにのびてくる腕に絡みつかれながら、再び口づけると、口に含んだ酒を彼女の口腔へと注ぎ込んだ。
 驚いたように目を見開いたが、意図を察したのか、彼女はほんの少しだけ苦しそうにしながら口移しの酒を飲み干していく。そのままの勢いで、酒にまみれた舌がねっとりと絡まり、つっつき、ひっぱりあう。歯列の裏をこすり、舌の裏側を舐めあげ、歯茎をいらう様に舌がうごめく。
「はぅう……」
 陶酔したような声に体を起こすと、彼女はとろけそうな顔でゆったりと微笑み、こう言ってくれた。
「このような口づけ、想像したこともありませなんだ」
 と。

 指と舌、唇とこすりつける顎先、手の甲、爪の先まで全てを使って、俺は彼女の肌を味わった。たわわな胸から、たっぷりとした尻から、なめらかな脇腹から、すらりとのびた脚から、一つ一つ感覚を掘り起こしていく。
 足と手で尻たぶを割開き、敏感な部分を外気にさらす。
「だん、な、さま……」
 けれど、肝心の部分にはけしてふれない。たっぷりと揺れる両の胸の上でぴんととがった鴇色の突起にも、すでにあふれだしそうに蜜が溜まっているのがわかる秘所にも。
「だんな、さま……」
 泣きそうな声をあげるほどに追い詰めていく。
 くちゅり……ちゅぷ……ぬぷくっ……。
 尻を揉むたびに漏れる小さな音。耳に残るそのいやらしい音を、俺は楽しんでいる。
「旦那様は意地っ、悪です、な……」
「うん、だって、可愛らしいから」
 肩口をほおばる。肌に軽く歯をたてると、体が二度三度と震える。
「この老骨めに、そのようっ、なっ」
「ふふ、おいしいよ」
「旦那様に、くわっ、くうっ、喰われてしまいそうですな」
 右の乳房を口全体でくわえこむ。それでも全く足りないほどのボリュームだ。大きくあけた口が埋まっていくようだ。
 やわらかく歯を乳首の根元にあて、かるくぶつかるくらいの感じで動かす。その後で、槍の穂先のように尖らせた舌先で、乳首全体をつつく。
「んうっ」
 びくりと跳ね上がる体を押さえつけ、乳首と乳房をリズミカルに舌と唇で刺激する。蠢きはじめた彼女の腰を、無理矢理のように押さえつける。
「くふっ、くうう。本当に、お食べにっ、なる、おつもりですなっ」
「だって、この体は俺のものだろう?」
 言った途端、彼女の体が硬直した。
 やばい、調子に乗りすぎた。
 俺の頭の中がさっと醒める。だが、それは拒絶ではなく……。
「もう一度、もう一度言うてくだされ!」
 肩をつかまれて、がくがくとゆさぶられる。その必死な呼びかけに、俺は素直に応えるしかなかった。
「お前は俺のものだ」
「あああ……」
 彼女の体が揺れ、口からは意味のない声が漏れる。
 自分が何者か。それがわかるものはほとんどいないだろう。けれど、人はそれを追い求める。そう、どこかに立脚点を求めずにはいられないのだ。彼女の場合は、それが極端に曖昧になってどうしようもなくなっていて、俺という存在しか頼るものがないのだろう。
 だから、こんな睦言であっても、俺のものだと言われることで、自分自身を確認できるのだと、そう思う。
 でも、そんな風に冷静に考えたのは後のこと。
 その時の俺は、自分のものだと宣言した女の体を貪ることに夢中だった。
「はあっ、くうう……」
 俺が触れるだけで声が漏れる。これまで以上に敏感になった体躯に猛然と指を襲わせた。興奮が頂点に達したのか、彼女の腕が動き、自らの秘所にかかろうとするのをがっちりと押さえつける。
「だん、な、さま……」
「一刀、って呼んで。俺の国には真名の風習がないから、それが俺のただ一つの名前だから」
 言うと同時に、それまで触っていなかった秘所に指を突き入れる。ぷっくりとしたクリトリスに、めくれあがった陰唇に、そしてたっぷりと蜜をたたえた柔らかな肉の隧道に指を踊らせる。
「うふぅううああああああ」
「一刀」
 悲鳴のような声をあげる彼女の耳元で執拗に囁く。耳に舌を差し込むと、がくがくと頭が揺れ、銀の光をたたえた長い髪が大きく広がる。
「一刀さまっ、かじゅ、かっ、かずとさまああああ」
「ありがとう」
 彼女は強く俺にすがりつくようになり、口からは俺の名を呼ぶ声が途切れることなく続く。空いた手で髪の毛をなでながら、なおもはげしく彼女を攻めた。
 溢れ出てくる愛液を陰唇になすりつける小指と人指し指。包皮をむき、露わになったクリトリスをやさしくこすりあげる親指。中指と薬指は熱泥のようにうねくる肉壁に埋め込まれ、こすり、かきまぜ、つつき、熱い蜜をかきだし続けた。
 びちゅっ、じゅぶり、ぬぷくっ。
 連続した水音を、わざと響かせる。彼女の耳に聞こえるように。俺自身の興奮をたかめるように。
 俺自身はもう張りつめて痛いくらいだ。彼女をかき混ぜたまま、態勢を変え指を抜く。
「いやぁ……」
 小さく吐息のような悲しみの声。だが、それも俺のものを押しつけると甘いうめきに変わる。触れた箇所が熱い。なにもせずとも飲み込まれていきそうだ。
「いくよ」
 声が聞こえていたのかどうかはわからない。ただ、俺が入っていくと、彼女は喜悦の声を漏らしながら、中をうごめかせて抱き留めてくれたのだった。

 一度彼女の中で精を放った後も俺たちはつながっていた。
 俺のものはいまでも彼女の中でそこそこ大きいままだが、動かす気にはなれず、彼女の熱を楽しんでいる。彼女も似たようなもので、うっとりとした顔で俺に抱きついたまま、それ以上のことを促そうとはしない。
「一刀様に……」
「ん?」
「一刀様にお渡しする真名がなければいけないのじゃが……」
 眉根を寄せて、彼女は困ったように俺の顔を見る。確か、冥琳が彼女の真名を教えていたはずだけれど……。
 俺と同じことを考えたのか、彼女は先を続ける。
「周瑜殿は、儂の真名は祭だと教えてくださりました。けれど……一刀様、それは知ったのみです。どうか、旦那様の声で、唇で、儂に再びその名を名付けてくださりませ」
 抱きしめる腕に力が込められる。
 そんな大事なことを俺なんかが委ねられていいのだろうか。そんな逡巡が俺を襲う。
 いや……違う。大事な人を支えることになんの躊躇いがあろうか。記憶を失った彼女にとって、これはきっと生まれ変わりの儀式なのだ。
「君の名は、祭だ」
 耳元で囁く。
 祭の体がかっと熱くなり、俺とつながった部分の潤いが急に増して、思わず小さくうめき声をあげる。おさまりかけていたものに芯が通っていく。
「祭」
 腰を軽く動かして、中をこすりあげると、彼女も反応してくれる。からみついてくる肉の感触がたまらない。
「うう、あああ、一刀様……」
「祭」
 何度も何度も名前を呼ぶ。
 中を突くごとに、
 髪をなでるごとに、
 口づけをする度に。
「俺の、祭」
 抱き寄せてはげしく突くと、感極まったように声をあげる祭がいとおしい。
「ああっ、一刀様、旦那様」
 目の端に涙をためて、彼女は叫ぶ。
「突き殺してくださいませ。一刀様。これまでの儂をこわしてくださりませ」
 俺は、その声に応えて、祭の体にむしゃぶりついていった。

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洛陽の巻・第二回:黄公覆、生まれ変わりて北郷に従うこと」への2件のフィードバック

  1. 赤壁の戦いにて苦肉の策に掛かった振りをして返り討ちにした黄蓋が、
    記憶喪失状態だけど生き延びてました・・・と言うお話ですけど、
    魏軍も呉軍も「死亡確認!」だと思っていたと言うのに、
    戦場にゴッドヴェイドーの医師達が従軍してた訳でも無いのに、
    本当にどうやって命を繋ぎ止めていたんでしょうなぁ?

    •  祭さんに関しては孫堅様が、地獄の鬼をだまくらかして、命の蝋燭を継ぎ足したんじゃないでしょうか。
       いや、結構まじめにそんな感じではないかと……w

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