洛陽の巻・第一回:袁公路、虜囚の辱めを受けること

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「元々風がここにやってきたのはですね、孫策さんがいらっしゃったことを華琳さまにお知らせするためだったのですー」
 孫策の名前を聞いた途端、がくがくぶるぶると震えだした袁術ちゃんとそれを介抱してる張勲さんはこの際おいておいて、風の話を聞く。俺次第と言われては、頑張るしかないじゃないか。
 それにしても、孫策がこの城に来ているって?
 たしか、各国の重鎮が三国会談のために訪れるのは、はやくとも明日か明後日だったと聞いていたけど……。
「なんや、ずいぶんはやいやん」
「行軍に飽きた孫策さんが先に馬を駆ってきたみたいですね。だから、いま城についてるのは、孫策さんと周瑜さんのお二人だけです」
「まあ、らしいといえばらしいけど。それで、談判というのは?」
「孫策さんは、袁術さんを下し、追放して呉を建国しました。ですから、おにーさんの庇護下とはいえ、再び表舞台に袁術さんが出るとなれば色々確執を引き起こす可能性がありますー。魏と呉の対立を呼ばないためにも、お互いにこれまでの遺恨は一切水に流し、以降、無用な手出しはしない、という確約が必要だと思うんですよ」
「その手打ちを一刀にさせろ、ということね」
「はいですー」
 ふふん、と一つ笑って、華琳は鎌を袁術たちからそらした。それを見て、霞も偃月刀を握る手の力を抜く。
 途端にどっと汗が噴き出した。どうやら、張りつめた空気に結構やられていたらしい。
「そうね、それでいいんじゃない。できるわよね、一刀。できなければ……」
「わかってる」
 ひとつ頷いて、俺は袁術ちゃんたちを見直した。震え続ける袁術ちゃんと、心細そうにこちらを見つめる張勲さんの視線を受けて、俺は、覚悟を新たにするのだった。

「わ、妾はいやじゃ、ソンサクコワイソンサクコワイ」
 なぜだかカタコトになってしまった袁術ちゃんをなんとか張勲さんとなだめすかし、二人で抱えるようにして、ようやく孫策さんたちの逗留している部屋の前についた。さすがに観念したのか、張勲さんに抱きかかえられた袁術ちゃんはもう騒ぐこともない。護衛の兵士を脇にやって、俺は二人に話しかける。
「張勲さんたちは廊下で待っていてくれればいいから。話がまとまったら呼ぶんで、最後だけ顔出す感じで」
「はい、わかりました。ほら、お嬢様、孫策さんとほとんど会わなくていいみたいですよー」
 そう言われた袁術ちゃんは、張勲さんの腕の合間から、半分顔を隠しつつこちらを伺っていた。
「北郷」
「ん、なに?」
「れ、礼を言っておく。なんだかやりとりはようわからんかったが、妾たちの命を救ってくれたのは主じゃろ。名にしおう、え、袁公路の礼じゃ、ありがたがれ!」
「はいはい。ありがとな」
 ぽんぽんと頭をなでて応える。きっと、これは彼女なりに俺を励ましてくれてるってことだろう。女の子が震えながらも励ましてくれたというのに頑張れなければ、男がすたるってものだ。
「むぅ、北郷は緊張感が足りないのじゃ。孫策は恐ろしいやつじゃというに……」
「ん、まあ、行ってくるよ。約束もらってくるから待っててな」
 そう言って俺は孫策の部屋に訪問の旨を呼びかけるのだった。

 応対に出た女官に、孫策と周瑜に会いたいと伝えると、一度奥にひっこんだ後で、中へどうぞと招かれた。女官は気を利かせてくれたのか、俺と入れ代わりに出て行く。
 よし、と一つ気合いを入れて中に足を踏み入れる。孫策は顔を見たことはあるものの、ほとんど話をしたこともない。だが、本気の華琳の前に立つ時と同じと思っておけば、なんとかなるに違いない。なにせ、あいつが怒った時はそりゃあ怖いもんだし……。
「お邪魔します。北郷一刀です」
「いらっしゃい。天の御遣い殿」
 柔らかな声。予想していたのとは違うそれに、俺はちょっと拍子抜けしてしまった。
「ええと、周公瑾さん、ですよね」
「ああ、呉の周瑜だ。孫策と会見がしたいと? 曹操殿のご内意かな?」
 身振りでそこに座れと示されて、周瑜さんと同じ卓につく。誰か来るのがわかっていたのだろうか?
 用意されていた茶の杯から、心地いい香りが漂ってくる。
「ああ、いや、そうじゃなくて、いまは、俺個人のことで……」
「そうか、だが、雪蓮(しぇれん)のやつ、ちょっと出ていてな」
 少し困ったように眉を曇らす顔にどきりとした。周瑜さんって、美人だなあ……って、こんな時になにを考えてるんだ。
「用事かなにか? だったら出直してくるけど」
 内心の動揺を押し隠すために早口になっている。落ち着け、俺。
「うーん、その……な、『探検だ』とか言って出ていったんだが、どうせ城の大部分には入れないだろうし、すぐ戻ってくると思うのだが……」
「探検……ですか」
「……うむ」
 沈黙。
 まあ、どこの王様も一筋縄じゃいかないものなんだろう。
 俺の世界の周瑜は早世しちゃったけど、この世界は大丈夫なんだろうか。気苦労、多そうだけど……。
「そ、そうだ。天の御遣い殿に会ったなら訊いてみたいと思っていたことがあってな」
「俺に?」
「そうだ。赤壁の戦いの折……私と黄蓋殿の策を見破ったのは、あなただと曹操殿からうかがった。一体どのようにしてあれを読み取ったのか、教えていただきたい」
 すっと部屋の温度が下がった気がした。まるで触れれば空気が肌を引き裂くかのようだ。周瑜さんの眼力はすごい。細大漏らさず全て受け取ろうとするかのように、俺を見ている。
 黄蓋さんの死に様を思い出し、その光景が俺の愛する誰かのものだったらと想像して、突き刺さる視線に宿る怒りや恨みの成分の少なさに驚き、かつ尊敬を感じた。
 だから、俺は、頭に浮かんだいくつものいい訳やごまかしを全て破棄するしかなかった。
「知っていたからだよ」
「……知っていた? ありえない。あれは、各々が各々の思惑で動くために、当の私や黄蓋殿、諸葛孔明、鳳士元すらその全容は知り得ぬ策。それを知っていたと……」
「そう、知っていた」
 ぎり、と奥歯を噛み締める音が聞こえてくるようだった。殺気とは言えない、けれど、なにか煮えたぎるものが滲み出てくるのを感じる。嘲弄したと思われたろうか。でも俺には、正直になるしか道はなかった。
「天の国ってみんなが言う世界は、この世界とよく似た世界で」
 突然なにを? と驚いたような顔をそのままに俺は言葉を続ける。
「でも、少しだけ時間の感覚がずれてるんだ。その世界での歴史では一八〇〇年前、曹操は赤壁で孫権と劉備の連合軍に大敗を喫した。そこで使われたのが黄蓋の偽降――苦肉の策と連環の計。俺はそれを知っていて、華琳に進言した。華琳に負けてほしくなかったから」
 どれだけ伝わるかはわからない、でも、俺は自身で理解している限りのことをちゃんと説明しなきゃいけない。そう思った。
「おかげで、この世界から消されちゃって、戻ってくるのにえらいかかったんだけどさ」
 長い――本当に長い沈黙。
 それを破った周瑜さんの声は、疲れ切ったように掠れていた。
「鬼謀でも、神算でもなく、ただ、知っていた、か……くっ……」
 うつむく顔、震える肩。
 だが、俺にはどうすることもできない。切れるように鋭かった空気が、今度は肩にのしかかってきそうなくらい、重く、硬い。
 しかし、それは、周瑜さんの続く声によって断ち切られることとなった。
「あーはっはっはっは」
「へ?」
「いやあ、すまんすまん。うん、納得した。ふっきれた。そうか、知っていたか。それは仕方ない」
 突然笑いだした周瑜さんに驚き、ぽかんと口をあけて間抜け面をしてしまう。笑いがおさまらないのか、ぷっと吹き出してはくすくす笑い、目尻にたまった涙を拭っている周瑜さんは、まだちょっと無理をしているような気がした。それでもさっきのような鋭さは和らいで、いい笑顔をしているように思える。
「軍師として悩み抜いた結果が、知られていたから、とは。驚きだわ……。でも」
 と一度言葉を切り、周瑜さんは再び鋭い気迫をまとって俺に向きなおった。
「もうひとつだけ、うかがってもいいかな」
「俺にわかることなら答えるよ」
「では、訊く。何故、素直に知っていたなどと答えたのだ? 信じられない――いや、現にいまでもよくわからないでいるが――莫迦にしているのかと激昂する可能性だってある。それに、貴殿の知謀に見せることもできたはず」
「周瑜さんが、ただ、純粋に訊いてると思ったから、かな。俺が恨まれたらそれでいいってわけでもなさそうだったし……。それに、そんな器用じゃないしね」
 俺の答えを聞いて、周瑜さんはぎゅっと眉間にしわを寄せ、すぐにそれを解いて、また朗らかに笑った。さっきの爆発的な笑いとは違う、親しみが籠もった笑み。
 なんだか嬉しくて、俺も笑みを返す。
「貴殿には驚かされてばかりだな。天の御遣い殿」
「一応、名前があるから、そっちを呼んでくれるとうれしいな」
「そうか、では、私のことは、冥琳(めいりん)と呼んでもらおうか」
「いいの? それって周瑜さんの真名だろ?」
 ふふん、と鼻にかかる笑いをひとつ。
「聞き返すのは、野暮というものではないか、北郷殿」
「そっか、ごめん。……俺には、真名ってのがないから、一刀って呼んでくれたらいいよ」
「ふむ……。天の国には真名の風習がないのか」
 驚いた顔をして、けれどもさすがに珍しい情報には食いついてくるしゅ……冥琳。
 こういうところは、どこの国にいっても軍師ってのは変わらないもんなんだな。魏の軍師は変わり者が多い――いや、変わり者ばっかりだけど。
「いずれ、天の国の事を詳しく教えてもらえるかな。一刀殿」
「いいよ、いつでも。そうそう、俺の世界では、冥琳のことは、眉目秀麗な英雄ってことで、美周郎って渾名で伝わっているんだよ」
「なっ」
 一息ついたと思ったか、飲もうとしていた茶杯を取り落としそうになり、慌ててもう片方の手で受け止める冥琳。なんだか顔まで赤くしている。そういえば、美周郎って男性への呼びかけ方だから、怒らせちゃっただろうか。
「天の国では……」
 冥琳が気を取り直したのか言いかけた言葉は、耳をつんざくような悲鳴によって途切れた。
「北郷ぉ~。たすけてたもー!!」
 ばたばたとかけこんでくる袁術ちゃんと張勲さん。その後ろからやってくるのは、抜き身の剣をひっさげた猛禽のような雰囲気を漂わす美女――孫伯符の姿。
「そ、孫策じゃ、孫策が妾たちを~」
 なにかわめきつつ、俺の膝にすがりつき、卓の下に隠れようとする袁術ちゃん。張勲さんは、そのさらに背中にひっついて、縮こまろうとしている。
「雪蓮、なにをしているんだ、剣をひけ。魏の城内ぞ!」
「あら、冥琳。それにお客人もいるのね。すぐ終わるわ。そこの莫迦二人、始末をつけるまで待っててね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、一体なにがどうなって……」
 見れば、張勲さんの服の背中が切れて、べろんと垂れ下がっている。幸い、血の赤は見えないから肌を切られずに避けられたようだが、切りかかられたのは確実だ。
「今回は、ほんとになにもしてませーん。ただ、話がどうなってるか心配で、この部屋を覗いてたら、孫策さんが後ろに……」
「あーもう、うるさい。その間抜け面二度と見せるなって言ったでしょ。こんなところにいること自体害悪よ。華琳の手を煩わせるまでもない、私がさっさと始末するから。さ、よこしなさい」
「莫迦はあなただ、雪蓮。まずは剣をおさめろ!」
 駆け寄って、必死で止める冥琳。だが、孫策は全く収まりそうにない。冥琳に遠慮してか剣を振る手は動いていないが、その体からあふれる気迫は、俺が何度か戦場で感じたものだ。
 殺気と言えるほど強い志向性をもたない、ただ、邪魔なものを排除する気概に満ちたそれ。
「なによー。冥琳だって、袁術には何度も歯がみさせられたでしょ。一度見逃したんだから、もう見逃す義理もないはずよ」
「だから、ここは魏の城内だって言ってるだろう、雪蓮。外交問題になるぞ」
「元々はうちの不始末でしょー? やり損ねてたのをやりなおしたって言えば、華琳も文句はないわよ」
 呉の主従の言い合いは止まりそうにない。これは、秋蘭あたりを呼んで……と一瞬考えた後で、足にすがりつく二人の存在がそれを拒んだ。
 がたがたと歯の根もあわぬほど震えている少女とそれを守るように抱きしめる一人の女性――この二人の面倒をみると言ったのは、誰だ?
 すう。
 ひとつ、息を吸う。
 心を平らかに、胆に力をこめて。
「そうだ。あなたがたの不始末だ」
「んー?」
「袁術たちを生かして逃したのはあなたたち孫呉の不始末。それが、流れ流れて魏の領内で野盗を繰り返したのも、元をたどればあなたがたの不始末に遡れる……と思う」
 睨むでもなく見つめてくる目を、踏ん張って見返す。そうしなければ、逸らさずにはいられないほど力強い瞳を。
「だけど……。いいや、だからこそ、勝手な真似は許されることじゃない。彼女たちは魏で捕らえられ、いまは俺に保護されている。もはや、あなたがたの管轄を外れたことに、勝手に手を出されては困るんだ」
 今度こそぎんと睨みつけられる両の瞳に内心でたじろぎながら、なんとか耐える。いつのまにか袁術ちゃんの震える手をぎゅっと握っていた。その小ささにあらためて驚きを禁じ得ない。
「あなた、誰よ」
 いまさらのように問う孫策に、脇に控えた冥琳がなにごとか囁く。俺の名でも告げているのだろう。
「んー? あぁ、天の御遣いとかいう? あれ、でも消えたんじゃなかった?」
「つい最近帰って来てね」
「なんでもいいけど、うちの不始末なら、うちが最後まで背負うのが筋じゃない? 魏で迷惑かけたなら、余計にね」
 ぶらぶらと剣を揺らす孫策。少しは気勢を殺げたろうか? 孫策という英傑の視線を受け止めるなどという無謀をしているせいか、視界が狭まって辛く感じる。
「背負えなくて放り出したものを、俺が拾った。だから、以後、一切の手出し無用」
 言いたいことを詰め込んだせいか、変な口調だ。でも、いくらなんでも、これ以上はきつい。
 孫策は俺と袁術たちをねめつけていたが、呆れたかのようにふんと鼻を鳴らし、剣をおさめた。
「ふーん、そゆこと」
「雪蓮」
「わーかったわよ。孫呉は今後一切、袁術には手を出さない。これでいい? もちろん、新たに仇なすようなことをしなければ、だけど」
「ああ、ありがとう」
 ふう、と溜め息をついて、椅子に深くもたれかかる。あいかわらず震え続ける袁術ちゃんの頭をゆっくりとなでてやった。やわらかな髪は、盗賊暮らしがあわなかったのか、ちょっと傷んでいた。
「まったく……。すまんな、一刀殿。曹操殿にも謝っておいてくれ」
「なによー。わたし、悪くないもん」
「まあ、いいよ、冥琳。今後は穏便にやってくれればさ。仲よくしろ、とまでは言わないけど」
 ぷんすかと甘えるように怒りだした孫策と冥琳の仲の良さにほっとする。ただ、それでも袁術ちゃんたちはここにいるのが辛いだろうと、二人を卓の下から引きずり出す。
「さ、帰るよ」
「うー、大丈夫なのかえ?」
 袁術ちゃんたちは、孫策たちと一切視線をあわせることなく立ち上がり、あっと言う間に俺の背中に隠れた。あちらもそれは見て見ぬふりをしてくれるようだ。
「じゃあ、華琳のほうからはあらためて挨拶にくると思うから。宴席でまた」
「はいはーい。あ、宴にはあいつらもでるの? うちの連中に言い含めておいたほうがいい?」
「あー、それは華琳次第かなあ。でも、城内で会うかもしれないし、手出しするなってのは言っておいてほしいな」
「ああ、雪蓮じゃなくて、私からしっかり言っておくから大丈夫だ、一刀殿」
「頼んだよ、冥琳」
 二人を背負ったまま後ろ向きに進むのはかなり面倒だったが、そんなこんなでなんとか部屋を出ることができた。
「なにー、冥琳、いつの間にあいつと仲良くなったわけー」
 扉の向こうから、そんな孫策の声がするのを聞きながら、俺たちは半分腰が抜けた張勲さんを支えながら部屋に戻ったのだった。

「一刀~、遊ぶのじゃ~」
 扉を開く音といっしょに元気な声が執務室に飛び込んでくる。
 その声の主は、そのまま転がるように俺のほうに突進してくると、当然のように膝の上に飛び乗った。なんで、こう膝に乗りたがるやつが多いのかね。俺の膝ってそんなに座り心地いいか?
「あー、もう、俺は仕事があるんだって」
「うー、じゃあ、蜂蜜水は?」
 大好きな蜂蜜と同じ色の髪の毛が、もそもそと俺の顎の下で動く。それが可愛らしくて、つい、俺はその髪の毛をいじってしまう。くすぐったがって、余計もぞもぞする彼女。
「これじゃ取りにもいけないだろ、美羽」
「七乃が、取ってきてくれるのじゃ。のぉ、七乃」
 あとから入ってきた七乃さん――あの孫策の一件で俺の保護下に入ってからは、美羽も七乃さんも俺に真名を許してくれていた――が、はいはい、という感じでいそいそと蜂蜜をとりにいく。美羽の部屋に置いておくと、いくら七乃さんが止めてもすぐに舐めてしまうので、美羽用の蜂蜜は俺の部屋に置いてあった。
「いつも通りの量だけですよ。七乃さん」
「はぁーい、わかってますよう」
「うー、一刀はしぶちんなのじゃ」
 そんな恨み言をたれつつ、七乃さんが蜂蜜水を渡したら夢中で飲んでいるのだから、かわいいものだ。
「お嬢様、一刀さんにずいぶんなついちゃって。なんだか、寂しいですぅ」
「どうせ、俺を通して華琳を操って、影の支配者になるのじゃー、とか考えているんじゃないの」
 軽口を叩いてみれば、不意に美羽が蜂蜜水を呷る手が止まった。
「あ……」
「おいおい」
「ち、ちがうぞ、妾はそんなことは微塵も考えておらんのじゃ。うん、一刀のところにくると蜂蜜水が飲めるから来てやってるだけじゃ。そ、それだけに決まっておろ!」
 なんだかなあ。
 言葉通りなら、それはそれで寂しいんだけど。まあ、いまの俺じゃそんなものかもね。
 華琳と孫策という大物二人を説得して、美羽と七乃さんの二人を得たものの、活躍の場を与えられているとはとても言えないのだから。
「あらー、お嬢様、ほんとにそんなこと考えてらっしゃったんですか。よっ、傾国の美女っ」
「ち、ちがうと言っておろうが。一刀なんぞに名家の血脈たる妾がそのような事を思うわけがなかろ! 宦官の孫娘ではあるまいしの」
「でもー、お嬢様。『妾のためにあの孫策と渡り合うなど、なかなか見どころがあるの』とかなんとかおっしゃってたくせにー」
「七乃ぉ!」
「あら、お嬢様、せっかくの蜂蜜水がこぼれちゃいますよ」
「う、うるさい、うるさいのじゃ、七乃が阿呆なことを言うからいけないのじゃ! 妾はぁ」
 わいわいと騒ぐ二人。俺はつい美羽の頭をなでてしまい、それに対してぎゃあぎゃあと騒ぎだすのを、またあやしてやらねばならなかった。
 そんなこんなの騒ぎの中――こんな日常が得られたのなら、それはそれでよかったのかな、なんて思うのだった。

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洛陽の巻・第一回:袁公路、虜囚の辱めを受けること」への4件のフィードバック

  1. おおっ!更新してはるぅ!自分が恋姫SSにハマるきっかけとなったこの作品を、また読み返していけると思うと、うれしい限りです。ゆっくりでも更新頑張ってください。

    • 本来は去年やるべきことだったんですけどねw
      自サイトにしっかり残すのも大事だと思うので、ぼちぼちやっていきたいと思っております。

  2. 待ってました!
    ホントにほんっとに、待っておりましたッ!
    応援しております!頑張って下さい!

    • 本当に、お待たせしました。
      ゆっくりめのペースだとは思いますが、着実にやっていきたいと思っておりますので、おつきあいいただければ幸いです。

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