洛陽の巻・第一回:袁公路、虜囚の辱めを受けること

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「蜂蜜水がほしいのじゃ、蜂蜜水が……」
 ちらっ。
美羽(みう)様、もう……ないんです。どこにも……。ああ、この七乃(ななの)が喉を突きますから、そこから血をすすってくだされば、すこしは渇きも癒えましょう」
 ちらちらっ。
「嗚呼、この袁術ともあろうものがこのざまよ」
 ちらっちらちらっ。
 床につっぷした袁術と、それに覆い被さるようにした張勲。そして、それを見下ろしている俺。

 なんだ、この構図。

 しかも、大仰な台詞を言う度に俺を盗み見ていたのは、なんの真似なんだろう。
 こっちの世界に帰還して二週間、みんなからもう消えてなくなったりはしないと思われたのか、ようやく与えられたはじめての仕事がこんなことになろうとは。
「いくらそんな演技しても、蜂蜜水は出てきませんよ」
 部屋の隅に置いてある大瓶を覗きにいくと、飲料用の水はまだあるようだった。今朝、俺自身が井戸から汲んできたのだから、無いわけもないのだが、一応確認しておかないと。
「喉が渇いているなら、お茶でも淹れようか?」
「ちぇー、北郷さんってばお莫迦さんだから騙されてくれると思ったのにぃ」
「なんでじゃ~! 北郷は妾たちの世話係であろ。蜂蜜水くらいくすねてくるのじゃ!」
 ばたばたと床の上で暴れる袁術ちゃんと、それをなだめながら起こす張勲さん。この二人は自分たちが捕虜である自覚がないんだろうか。

 ないんだろうなぁ……。
 この時代にお茶を飲めるなんてすごいことなんだけど……。いや、そのことは俺も一度帰ってから勉強して知ったんだけどね。
「おやつは三日に一度。おやつを食べたら二日は蜂蜜水は無しって、昨日約束したばっかりでしょ?」
「約束ぅ? おぼえておるか? 七乃」
「えー、約束ですかあ? うーん、したようなしなかったような……」
 この人たちにつきあうのは今日で三日目だが、これが演技でないことはわかる。本気で忘れているのだ。いや、張勲さんのほうはそもそも気にしていなかったのかもしれない。
 手持ち無沙汰なところで気軽に引き受けたけど、なかなか厄介だぞ、これ。
「とにかく、妾は蜂蜜水が飲みたいのじゃ!」
「虜になってもわがまま三昧、さすがですぅ、お嬢様!」
「うむ、もっと褒めてたも」
 あれって褒めてたのか。
「いや、わがままってわかってて言われても……。おやつもなんとか譲歩してもらったんだけどなあ。ねえ、袁術ちゃん、張勲さん、自分たちの立場わかってる? 野盗をやってて捕まっちゃったんだから、この待遇でもかなりいいほうだと思うんだけど」
「そこは、ほれ、三公を輩出した名家の力じゃな」
「根拠のない無駄な自信、すばらしいですぅ。お嬢さま」
「そうじゃろ? そうじゃろ?」
「いやー、違うと思うけどなあ……」
 実際は、まだ捕まえきれていない盗賊団の残党を狩りだすために、囮として置かれているらしいんだけど……。
 そのあたりは知らないほうが幸いなのだろうか。
 ちなみに、捕らえきれなかった面々の中には、反董卓連合戦の時に耳にした華雄(かゆう)将軍もいるらしい。
 将軍としては猪すぎるらしいけれど、武勇はそれなりにあるので放っておくと厄介なんだそうだ。ほうぼうを荒らされて人々が土地を離れたりしたら、乱の原因にもなりかねない。
 そんなわけで、華雄将軍のほうは、昔同僚だったこともある(しあ)が中心になって追いかけまわしているのだが、まだ捕まらない。
 とりあえず捕縛できるまで袁術たちはここで捕虜暮らし。それはつまり華雄将軍のほうが解決したら、用済みということでもあるのだが。
「むー、七乃、なんだか眠いのじゃ」
「はいはい、じゃあ、お昼寝しましょうねー」
「うむ、寝るぞ!」
 本人達はいたって呑気なものである。
「ああ、ゆっくりおやすみ。俺はこっちで読み物してるから」
 読むものはいくらでもある。
 俺がいなかった一年の間のことを記した報告書だけでも膨大な量があるのだ。
 なんでもいずれ魏の歴史書をつくるための資料らしいが、現在の事情に疎い俺にはちょうどいい。考えてみれば、メインの仕事はこれらを読んで現状を把握することで、袁術たちの監視はつけたしみたいなものなのかもしれない。
「うーん」
 どれくらい経ったろう。三国の交易の変遷を記した文書を読み終えた俺は、顔をあげて伸びをした。
 体が固まりそうなので、ゆっくりと部屋の中を歩く。袁術たちは寝ているはずだから、音をたてないようにそーっと。
 すると、寝室のほうからぼそぼそと話し声が聞こえた。貴人用とはいえ捕虜のための部屋だから、衝立はあっても内側に戸はない。プライバシーはないに等しいのだ。
 いや、あったら監視できないのだけど。
 たぶん、寝つけなくて、お話をしてあげているんだろう。この間も張勲さんがそうやって寝かしつけているのを見たし。
 まあ、袁術ちゃんもまだまだ子供だから、それも不思議じゃない。俺の知っている歴史じゃ、皇帝を名乗ってえらいことになってたけど。
 あれ、こっちでも盗賊やら集めて仲を名乗っていたんだっけ?
「なぁ、七乃。あやつは曹操の情夫であろ? 人質にして逃げるのはどうじゃ?」
「んー……。人質にするのは簡単そうですけど、逃げきれますかねえ」
「大丈夫じゃ、あやつは孟徳以外にも、盲夏侯やら悪来やらにも手を出しているらしいのじゃ。いくらなんでも愛人をくびり殺すと言われたら道をあけずにはおられんじゃろ」
「うわー、お嬢様、きったなーい。さいこーですぅ」
 うん、ごめん。
 なめてた。子供のする会話じゃありませんでした。
 でもなあ、季衣や流琉(るる)はともかく、春蘭や秋蘭が人質に頓着するかなあ。
 『北郷。お前ごと斬る』とか言われないか?
 いや、『動くな北郷。動くと刺さるぞ』って矢を射かけられる可能性の方が高いか。

 いずれにしろ、二人の逃亡プランは無理がある。二人には、俺を人質に捕らえること自体不可能なのだ。
 なにしろ……。
 考え事に夢中になっていたからか、寝室に影を落とす位置に移動してしまっていたらしい。
 光の具合に目を細めた袁術が、がばりと飛び起きる。
「むっ! こやつ、妾たちの謀を聞いておった。七乃。これは一大事じゃ!」
「そうですねー、しかたないから、ここは口封じに……」
 いや、だから、そういうことはやめておいたほうが……。
 その忠告を口にする前に、扉の閂が抜かれ、部屋に入ってくる人影がひとつ。大鎌を構えた小柄なその影は、猫のように音もたてず、素早く俺を護る位置に移動していた。
「あら、口封じに、なにをしようというのかしら?」
「そ、曹操!」
 寝台から飛び下りて俺ににじりよろうとしていた二人は、華琳の声を聞くと、飛び上がって、抱き合って、そのままへたり込んだ。
 なんとまあ器用なひとたちだ。
「ああ、華琳」
 そうか、今日は華琳の番だったのか。俺は、大鎌をバトンのようにゆらゆら揺らしている魏の……いや大陸の王者に声をかけた。
 よりによって運がないな、袁術たちも。
「あら、驚かないのね、一刀」
「まぁ……。誰かついているのは薄々」
「へぇ、あなたに気づかれるなんてね。こちらにいない間に少しは武も鍛えたのかしら? それとも、修行不足の誰かさんを罰するべきかしら」
 実を言うと自分で気づいたのではなく、たまたま宮殿の廊下で転んだ時に、陰で監視しているはずの(なぎ)がつい助けようと出てきてしまったのを問いただした結果なんだけど。彼女によると、俺には四六時中監視兼護衛がついているんだそうだ。
 陰からの護衛だけで済ませられているのはまだましなほうなんだろう。帰って来てからの数日は、そりゃあ、すさまじいものだったからなあ。
 華琳にさんざっぱら怒鳴られた後で二人きりの時にひとしきり泣かれるくらいは覚悟の上だったけど、春蘭に絞め殺されそうになったり、明らかにやばい状態の春蘭を止めようとしない秋蘭の背中に鬼の影を見たり、凪に抱きつかれて肋骨が折れそうになったり、無理矢理俺の口にごちそうを詰め込もうとする季衣に窒息させられそうになったり、俺がいない間に腕を磨いていたらしい桂花の罠に見事ひっかかって一晩中宙づりになったり――ちなみに桂花は禁止されていたはずの罠をつくったのでお仕置きされていた――とてつもなく美味いけど死ぬほど辛い料理をにこにこ笑いながら出してくる流琉に平身低頭して謝ったり、無言でチョップを繰り出し続ける風とぶつぶつと恨み言をならべ続ける稟になんとか許してもらったり、北方鎮守の任から飛ぶように帰って来た霞の、息も絶え絶えな愛馬にはね飛ばされてみたり……。
 穏便に済んだのは服を買ってやると約束した――穏便?――沙和(さわ)と、元いた世界の機械の構造を教えることになった真桜(まおう)くらいのものだ。
 そんな狂乱の日々が終わった後も、華琳や風――おまけにたまに春蘭まで――が代わる代わる俺の腕やら服の裾やらを握って離さない状態が続いて、さすがにこれは政務が滞ると、城内からは絶対に出ないと約束して袁術たちの監視任務をもらったわけだが……。
 やっぱり、みんな心配してくれているんだろうな。二十四時間絶え間ない護衛とは本当にありがたいことだけど、ちょっとくすぐったい気もする。
「で、こいつら、どうしてくれようかしら?」
 いつのまにか寝室の隅に縮こまっている袁術たちに刃をむけて、華琳がにっこりと微笑む。その笑みは、彼女たちにとっては悪魔の笑みに見えていることだろう。
「実際なにかされたわけじゃないし、許してやりなよ。……利用価値もあるんだろう?」
 後ろの方は囁くように問う。がたがたと震えている二人に聞こえても認識されるかどうかはわからないけれど。
「あー、それな、ついさっき解消したんよ」
 陽気な声。
 あれ、この声は……と振り向いてみると、予想通りの勝ち気な美女の姿。ただ、いつもと違うのは左腕を包帯で包み、三角巾でつり下げていることだ。
「霞、怪我っ!?」
「ん? ああ、これか。せやから、さっき華雄を捕まえた時にちょっとな。まあ、こっちの腕一本の代わりにあっちの肋ももろたし、捕まえたんやからうちの勝ちやな。心配せんでもええて、この調子やと一月もすれば動くようになるし」
「そっか……おつかれさま」
 武の世界は俺が口出しできないことも多いし、どこか怪我をしてしまうのはしかたないことなんだろう。世が乱れていた時期にくらべれば、戦で死んでいく人だって減っているはずだ。
 でも、やっぱり女の子が――いや、愛しい人が傷つくのを見るのはつらい。
 ともあれ、華雄将軍が捕縛されたなら、野盗問題は解決ってことだな。
 あれ、ってことは……。
「聞いた通りよ、一刀。華雄をおびき寄せる餌の役目はもう終わり。だから、もう袁術たちに用はないの」
「よ、よ、用はないとはどういうことじゃ? ま、まさか、妾たちを殺すとは言わんじゃろ? そ、孫策の恩知らずのごとき小器ではあるまいし、曹孟徳ともあろう者が、この袁術を利用もせず殺すなどせんじゃろ? そうじゃろ?」
「そ、そうですよぅ。袁家の名声を利用すれば、まだまだ色々できることはありますよぅ」
 なんとか笑顔をつくりながら、震える声で問いかける主従。
「具体的には?」
「へ? そ、それは、曹操さんがですねえ……」
「……具体的には?」
 あ、まずいな。ここで気の利いたことを言えれば、多少は能力があるとみて華琳も部下に加える可能性もあったのに、張勲さん、口ごもっちゃってるよ。
 下手なことを言ったら余計怒らせるのは確実だけど、黙ってしまうのはもっと悪い。
 華琳が袁術ちゃんに才を認めていない以上、望みは張勲さんだけだというのに。
「霞。法に照らして、こいつらに下す罰は?」
 それでもしばらく――華琳も辛抱強くなったものだ――待った後、小さく溜め息をついて、彼女は霞に問いかける。
「あー、まあ、かわいそやけど、斬首かなあ」
「ひぅっ」
「お、お嬢さまぁ」
「百歩譲って両の手首斬るってのもあるやろけど、こんなお貴族様やったら結局死んでまうやろし、飢えて苦しむよりは、いっそすっぱりいったほうが優しさちゅうもんやな」
「そうねえ……」
 俺はなにも口を出せずにいた。法に則れば、二人が死罪に相当するのは明らかだからだ。袁術たちの野盗団による人的被害はあまり聞いていないが、ある時期には『税』と称して食糧や物資を脅し取っていたというから、擁護のしようがない。盗賊の罪だけではなく、国家の基礎を揺るがす罪だ。
 ん? あれ、華琳、いま俺のほうを見た?
「ゆ、ゆ、ゆ、許してたも。な、曹操。反董卓連合を組めたのも、妾たちの尽力じゃぞ。あれがあったからこそ、勇名も馳せたというものじゃし、す、すこ、少しは手加減というものを……」
「そ、そうですよぅ。私たちが宦官を綺麗にして、十常侍のみなさんを煽ったおかげで、董卓さんが洛陽にこられたわけですしぃ」
「あー、せやなあ。こいつらと袁紹の莫迦一族がうちらを陥れたんやったなあ。まあ、いまさらむしかえそうとは思いもせんかったけど、自分から言い出すくらいやったら……な」
 霞が、自由なほうの利き腕だけで器用に飛龍偃月刀を構える。その体から、殺気がじわりとにじむような気がした。
「孟ちゃん、せっかくやし、うちがやったるわ」
 偃月刀の切っ先がまっすぐに自分の顔を向くのをみて、袁術ちゃんの体がびくり、と大きく震えた。
「う、ひ、ひうぅうう」
「お嬢さまぁ」
 袁術ちゃんの着物の色が変わり、それが、床に、じわりじわりと広がっていく。
 ありゃ……漏らしちゃったのか。
「なあ、華琳、どうにかならないのか」
「どうにか? 助けるのは簡単よ。特赦でもなんでもすればいいんですもの。でも、それでどうするの? 生かしたとしても、こいつらが私の覇業によって治まった、乱れなくてもいい世を乱した罪は消えるわけじゃない。それを償えるだけの才覚があればよし。……でも、一刀も見たでしょう? 命乞いするだけに飽き足らず、自ら墓穴を掘るような人材を、曹孟徳は必要としない」
 冷然とした顔で言い放つ華琳。でも、違う。それだけじゃない。
 俺にはわかる。この顔は、試している顔だ。
 誰を? 袁術? 張勲? 霞?
 否。試されてるのは俺だ。
 考えろ、考えろ、考えろ。
「霞、結局野盗の群れってどれくらいの数だったんだ?」
「ん? あぁ、袁術たちを捕まえた時に蹴散らしたのが一六〇〇から七〇〇、今回華雄のとこに残っとったのは四〇〇程度やったから、逃げたのもあわせて、一八〇〇程度ちゃうか。二千はいってない思うわ」
「いくら盗賊とはいえ、三国が治まって、しかも魏の領内、二千近く集めるのはたいへんなことだよね?」
「まあ……一応華雄と袁術の名前もあったわけやし……」
 殺気をそがれたか、偃月刀を床についてもたれかかるようになる霞。
「百人単位ならともかく、千人を超せば、まとめるにもそれなりの力量がいる。ただ分け前を配るだけじゃおさまらないはず。それに、霞が手こずるほどの華雄将軍を配下にしている」
「だから? なにが言いたいの、一刀」
 あいかわらず華琳の声は冷たい。けれど、あれは少しおもしろがってる風情だ。俺はなんだかその顔がなつかしくて思わず微笑んでしまう。
「俺は、それだけの人を集められたことをすごいと思う。もう黄巾の時代みたいに乱れてもいないのに、だよ。たしかにいまの華琳が必要とする人材ではないかもしれない。もう袁術の名前を使っても大勢に影響はないかもしれない。けれど、袁術の名前、張勲の名前やつながりは、まだそれでも使えるものだと思う。
 本人たちが華琳の眼鏡に適わなくても、旧臣の中にはまだ見ぬ宝が埋まっているかもしれない。あるいはいまの三国の秩序からははみ出してしまっているけど、実力はある人材を見つける手だてになるかもしれない」
 ところどころつかえつつも、なんとか言い切る。
「だから、飼っておけ、と?」
「華琳の部下にしろとは言わない。俺が面倒をみる」
「一刀がぁ?」
「ほんま物好きやなあ」
 なんだか、反応が捨て猫かなんかを拾ってきた時みたいだ。庇護を必要としているという意味では、似たようなものなのかもしれない。
 でも、しょうがない。言った以上、責任はとるつもりだ。
「全く……あなたはどう思う、霞」
「うちは武官やからなあ。そういう判断は風あたりにでも聞いてみんと……」
「呼びましたかー」
 噂をすればなんとやら。ひょこっ、と宝譿(ほうけい)をのせた頭が揺れ出てくる。ええと、いつからいたの、風。
「袁術さんがお漏らししたあたりからですねー」
 また、勝手に人の心を……。
「うぅ、七乃ぉ」
「しっ、お嬢様、いまは黙ってましょ」
 こそこそ話してる声は皆に聞こえているが、ここは聞かなかったことにするほうがいいだろう。
「それで? あなたはどう判断する?」
「途中からでしたので、詳しい話を聞かせてほしいのです」
 霞と俺で華雄捕縛の件や経緯を話してる間に、華琳は鎌をふりつつ張勲たちに床の始末と着替えをさせる。
 途中で『どうなるかわからないけど、どうせなら綺麗な恰好で死にたいでしょ?』なんて脅すものだから、袁術ちゃんが固まっちゃってたけど、今度は漏らすものもなかったようだ。
「だいだい把握しましたー。でも、華雄将軍や、配下の人はどうするんです? 車裂きですか?」
「ああ、それやったらもう沙和のとこにたたき込んどいたわ。うちとこの隊に入れるほど根性あるやつはおらんやろけど、北で屯田やらせて、華雄はその頭に据えるつもりや。あれも遣いどころさえわかっとれば信用できるからな」
「それでしたら、首謀者だけ重い罪というのも、残された人たちの士気を下げますし、おにーさんが肉奴隷をほしいというならそれでいいんじゃないですかー」
「ちょ、ちょっと」
 なにを言いだすんだ、この軍師どのは。
「面倒みるってそういう意味かいな。せやったらしゃあないわ」
「ふーん、一刀はこれだけ手を出しておいて、まだ物足りないわけ」
「霞も華琳も風の冗談にのらないの!」
 冷たい視線が二対。本気じゃないだろうけど、居心地悪いことこの上ない。そんな、人の生き死にがかかった時に、不真面目なことなんか考えるわけないじゃないか。
「にくどれい、とはなんじゃ?」
 着替え終わったのか、可愛らしく首をかしげる袁術ちゃん。未だに死の淵にいるんだけど、もう忘れたんだろうかね、この人は。
「肉奴隷というのは、おにーさんに全てを差し出すってことですー。
 このおにーさんはひどい人なのです。風の体を開発しておいて、姿をくらましたかと思ったら、また戻ってきて、再び性の快楽に堕ちていく恥辱と快楽を味あわせ、もう二度と離れられないよう刻み込もうとしているのです。風は一年も放置されて喜ぶ変態さんではないのですが、そうやって仕込まれるとどうしようもないのです。
 袁術さんも張勲さんも、あきらめて、おにーさんに体を差し出すとよいですよ。命だけは助けてもらえますしー」
 うう、どう反応すればいいのやら。もう、華琳たちの視線まで氷点下を突っ走ってますよ。
 こりゃ、消えちまった恨みはまだまだ根深いな。俺のせいばかりじゃないんだけどなあ。
「むぅ、北郷はそのようなおそろしいやつじゃったか。……じゃが、死ぬのは嫌じゃ。どうしたらよいかのう、七乃」
「黙りなさい。あなたたちに選択権はないの」
 張勲さんが袁術ちゃんの問いかけに答える前に、ぴしゃりと華琳が言った。あらためて構えた鎌の切っ先がぴしりと二人に正対している。恐怖が再び浸透してきたか、棒立ちになって抱き合う二人。
「一刀が面倒を見るというならそれでもいいけど。無条件、というわけにはいかないわよね、風」
「そうですねー。ひとつだけ条件がありますねー」
「な、なんでも飲みます。もし、この七乃の命でお嬢様が助かるなら……」
「七乃が死んだら生きていけないのじゃ……七乃ぉ」
「袁術さんたちへの条件じゃないです。もう袁術さんたちはおにーさん次第なのです」
 そう言うと、風は俺のほうを横目でみやって、にやりと笑った。
「おにーさん、孫策さんと直談判する勇気あります?」

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洛陽の巻・第一回:袁公路、虜囚の辱めを受けること」への4件のフィードバック

  1. おおっ!更新してはるぅ!自分が恋姫SSにハマるきっかけとなったこの作品を、また読み返していけると思うと、うれしい限りです。ゆっくりでも更新頑張ってください。

    • 本来は去年やるべきことだったんですけどねw
      自サイトにしっかり残すのも大事だと思うので、ぼちぼちやっていきたいと思っております。

  2. 待ってました!
    ホントにほんっとに、待っておりましたッ!
    応援しております!頑張って下さい!

    • 本当に、お待たせしました。
      ゆっくりめのペースだとは思いますが、着実にやっていきたいと思っておりますので、おつきあいいただければ幸いです。

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