第十九回:会談

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1.武威

 武威は涼州の州治が置かれたこともあり、涼州を代表する都市である。時には武威のことを涼州と呼ぶこともあったほどであった。
 それ故にこの都市には魏もそれなりの兵を置き、しっかりと支配力を及ぼしている。涼州各地の豪族や軍閥、異民族集団とは異なり、この都市は魏の直接支配が及んでいるのだ。
 そんな場所であるから、左軍の大軍が駐留することも抵抗なく受け入れられた。ただし、政治的に支障がなくとも、いきなり多数の兵士が都市にあふれかえるというのには問題が生じる。
 そこで、左軍は都市から少し離れたところに陣を張っていた。
 巨大な天幕を中心に、大小様々な天幕や、簡易な仕切りが草原に並んでいる。
 雛里と白蓮は並んで馬を進めながら、右手に広がる天幕群と前方に立つ都市の城壁を見比べていた。
 草原に広がる天幕の群れを、西に落ちかけた日が照らす。
 天幕の間を行き来する兵士たちは影になって、その動きは妙に遅く見える。
 風になびく草は夕陽の赤と緑が混じって大地を黒に染めていた。
 空の朱色、大地の黒、そして、その間に広がる燃え上がるように赤い光。
 兵は焼け焦げた大地の上、なお燃えさかる炎の中を歩く幽鬼のようだ。
 雛里は、そんな美しくも恐ろしい心象を持つ。
 大きな帽子と一緒に首を振って、幻視を振り払い、彼女は何か言いたそうな白蓮へと体を向けた。
「一刀殿は、たぶん、町にいると思う。魏の太守が招いていると思うんだ」
 魏から派遣されている太守なら、北郷一刀を無視するわけにもいかない。
 おそらくなにくれとなくもてなそうとしていることだろう。
 白蓮の予想に、彼女は同意の頷きを返す。
「城に馬を出すほうがいいかもな。どうする?」
 雛里はその申し出に少し考えて首を振った。
「……いえ。まずは星さん達と合流して、北郷さんを訪ねるか呼んでもらうのがいいと」
「ああ、そうか。そうだな」
 うんうんと頷いて白馬義従の長はそう言い、背後に続く騎兵たちに合図を送った。
 ばらばらと彼女たちを追い越して、白馬たちが天幕の群れへと向かう。そうして到着が告げられ、様々な準備が成されるのだろう。
 そんな兵の動きを見て取ったか、陣の入り口に立った見張り台から降りてくる人影があった。一同を迎えるように歩き出したその影に、雛里たちは兵とは別れて近寄っていった。
 近づいてみれば、豊満な肢体をあでやかな戦装束に包み、鬼の仮面を被った女性の姿。
「おや、これはこれは。珍しい顔を見るものじゃな。久しぶりじゃのう、鳳雛よ」
「お、お久しぶりです。祭さん」
 雛里と祭はいくつもの思いを込めて、視線を交わらせる。
 かつて偽計を成功させるために魏の本陣にまで乗り込んでいった二人であった。
 そこにおずおずと口を挟む白蓮。
「聞いてるとは思うけど……」
 うむ、と一つ頷いて、祭は都市の方を指さす。
「旦那様なら、城のほうじゃ。将の大半もそちらに詰めておるわ」
 祭はそう応じてから、雛里が馬を下りるのを手伝う。
 小さい体なので、どうしても乗り下りには人手か台が必要となるのだ。
 やはり、戦車に乗ったままのほうがよかったな、と思う雛里。とはいえ、他国の陣を訪れるのに戦車では印象がよくないと考えて騎馬にしたのも彼女自身であった。
「星さんたちは……」
「蜀の将二人ならこちらじゃな。儂が案内しよう」
「よし。じゃあ、私は一刀殿のところに報告に行くよ。雛里、またな」
 祭から一刀たちの滞在する場所を聞いた白蓮は手綱を強くひき、馬体の向きを変える。振り返って、雛里に手を振るのに、服をはたいていた雛里も応えて手を振り替えした。
「はい。白蓮さん、またです」
 白蓮とそれを乗せる馬の姿があっという間に視界から消え、雛里は鬼面の将と共に歩き出す。
「成都からでは大変じゃったろう」
「いえ。私は、漢中からで……」
「ほほう。南鄭か。それにしたところで長旅じゃ」
「いえ、関中に出てしまえば……。急ぐ必要もありましたし……」
 そんなことを話しながら、二人は一つの天幕にたどり着く。そして、そこが蜀の将のための天幕だと説明した祭もまた、雛里を置いて立ち去っていく。
 なんだか疲れたな。
 そう思いながら、星と焔耶の待つ天幕へと足を進める雛里であった。

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第十九回:会談」への2件のフィードバック

  1. [第十九回:会談]1.武威の地の文にて。
    {際はそう応じてから、雛里が馬を下りるのを手伝う。}“祭”とすべき箇所が“際”になっています。

    貧乏クジを引いてこその白蓮ですよね。

    •  ありがとうございます。直しておきました。

       白蓮さんは、常識人すぎて……w
       一人、主を守ろうと気遣いした結果が、この巻き込まれ具合。実にかわいいですw

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