第十三回:罪罰

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 脚は、あぐらをかいた格好でくくりつけられていた。
 頭の後ろで組まされた手は、そのまま髪の毛ごと縛り付けられた。
 豊かとは言えないまでも、それなりに形のいいのが密かに自慢の胸は、黒革の帯で上下左右から押し上げられ、前につっぱるように絞り出された。
 口には黒革で包まれた棒が押し込められた。
 彼女はそんな格好で後ろから突き上げられていた。
 小柄な体は彼に簡単に持ち上げられ、彼の長い男根を何度も奥から浅い場所まで味あわされた。
 翡翠色の髪がかかった耳には舌を入れられ、もうぐちゃぐちゃだ。
 眼鏡を外された視界には、もはや彼が突き上げる度に走る快楽の火花しか見えない。
「詠……」
 耳元で囁かれる度に体が震えるのを押さえられない。
 だって、しかたない。
 彼に縛り上げられたのだから。
 だって、しかたない。
 身動き一つとれないのだから。
 だって、しかたない。
 こうして苦しい体勢にされているのだから。
 そう、だから、どうしようもない。
 何一つまともなことが考えられず、全てを彼に委ねていることも、太い男性器でえぐられるごとにくぐもった嬌声を上げることも、歓喜の波に全神経が揺り動かされていることも。
 そして、いま、この時を、幸せでたまらないと思っていることも。
 だから、どうしようもないのだ。
 彼女がひときわ大きい声を上げ、気の狂うような絶頂に呑み込まれることも、また。

 拘束されたままの彼女は抱え上げられ、男の膝の上に乗せられる。
 詠は抵抗もせず、そのままにされた。ただし、腕の拘束だけは口枷を外された後で文句を言って外させた。だから、彼女は自分の体を後ろから抱きしめている彼の腕に自分のそれを重ねることが出来る。
「略奪……?」
 彼女の体を優しくなでながら、ぽつぽつと会話をしているうち、その内容がどうにも血なまぐさいほうへと移っていく。それは戦場での将と軍師の間ではなにもおかしいことではないものの、この状況では少々場違いにも思えた。
「捕虜虐待と言うほうが近いかもしれないけどね」
 男と目線を合わせていないからだろうか、詠は逆にすらすらと言葉が出てくる気がした。本来はこの報告を先に済ませておくべきだったのを体を預けてからにしたのは、やはり気が重かったからだろうか。
 そう、彼女は自分で自分の心の中を探る。
「一応確認するけど、あんたの要請通り、住民、捕虜からの略取は一切不可にしたわ。ただし、戦が終わった後で、戦場の死体から集めるのは許可。そこまで咎めてもしかたないからね。ああ、でも、糧食に関しては毒や不衛生なことなども考えて、支給品以外は口にいれないこととしたけどね」
「うん」
 男の声は真剣で深刻だ。だが、彼女の体に触れているその指は温かい。そのことに勇気づけられ、詠は言葉を続けた。
「そいつらは戦が終わる直前、門が開いて落城しようかって時に、捕虜を殺してね。そこからの戦利品を戦死者からの収奪だと主張したようなの」
「どさくさに紛れようとしたってわけか?」
「そ。でも、罪の意識にかられたか、元々反対だったのか、それに加わった部隊――百人隊が三つだったらしいんだけど――のうち一つの副隊長が自ら名乗り出てきたのよ」
 そうでなかったら発覚しなかったかどうか。そこはわからない。
 自浄作用があることはいいが、それよりも、そんなことができないような体制を作り上げねばならない、と彼女は頭の別の部分で考えていた。
「ふむ……」
「それが祭の配下の部隊でね。あとは焔耶……魏延の部隊らしいわ」
「蜀とこっちと両方か」
 それであのとき……と頭の上で彼が呟くのを聞きながら、彼女は小さく頷く。
「ええ、難しいところね。いま、翠とねねたち、それに当の祭と焔耶が、他の部隊も関与しているかどうか調べてくれてるわ。ただ、たぶん今回の件は百人隊三つで収まると思うけど」
「どうして?」
「緒戦だから」
 きっぱりと言い切って、詠は自分の言葉に説明を加えていく。
「たいていの場合、略奪や暴行は軍規で禁止されているものなのよ。でも、有名無実化していることが多くて、中には直に許可を出す将軍とかもいるの。戦の進み具合や、住人への影響とか、色々考えることがあってね」
 顔をあげ、男がしっかりと自分を見ているのを確認して、さらに続ける。彼の瞳に首を傾かせ見上げる自分が映っている。きっと、自分の瞳には彼が映っていることだろう。
「ただ、兵たちは今回、初めてボクたちの下で戦うことになる。それぞれの将軍についていたことはあっても、少なくともこの組み合わせでは初めてでしょう。だから、どれくらいが許容範囲かわからない」
「軍規をきっちり適用するか、そうでないか、とか……様子を見ないとわからないってことか」
「そ。だから、そんなに多くの兵が加わっているはずがないのよ。だいたい、華雄や恋がそんなの許すと思う?」
「……まあ、ないな」
 彼は苦笑と共に首を振った。その笑みがはっきりと信頼を示している。
「そりゃあ、焔耶や祭だって許してるわけもない。目の前で見ていたら、とっくにそいつらは死んでいるでしょうね。ただ、祭のところは知っての通り遼東の兵だし、焔耶の兵も蜀兵。故郷を遠く離れて、たがが外れたのかもね」
 そうして、彼女は顔を引き戻し、彼の胸にさらに強くもたれかかった。
「実際名乗り出たのは生え抜きの魏の兵だったわけしね」
「そうか……」
 しばらくの間沈黙が続く。ゆったりとお互いの温もりを感じあうのはいいが、そうして全てを忘れてしまうわけにもいかない。
「どうする気?」
 彼女の問いかけに、彼は一瞬も躊躇することなく答えた。
「もちろん、軍規に照らして処分するさ」
 そのよどみない答えを聞いて、彼女は大きく嘆息せずにはいられなかった。
「……そう言うと思ったわ」

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