第十一回:北方

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2.(つわもの)

「あー、きつかった」
 今日ばかりは夏陣冬陣、両陣の将たちが揃う橇小屋の中に入ると、北郷一刀は長いすに音を立てて座り込んだ。
「旅程でなにかありましたの?」
 隣に座り、心配げに覗き込んでいるのは、膨大な質量の金髪をくるくると丸めてまとめた麗羽。その反応に、一刀は苦笑する。
「いや、そうじゃなくてね。ああいうの苦手なんだよ」
 それに対して肩をすくめてみせるのは、翡翠色の髪を揺らす眼鏡の軍師、詠だ。
「しかたないでしょ。母衣衆のお披露目と、あんたのことを効果的に見せるにはああするのが一番だったんだから」
「うん。それはわかってる。詠が俺でもこなせるようにしてくれたのもわかってるさ。ただ……」
「しかし、なかなかに凛々しいものでしたぞ」
 慣れないといけないんだろうけどねと呟く彼に、顔をほころばせて言うのは、蜀軍の将の一人、星。
 あでやかな着物の袖で口元を覆っているため、本気なのかからかっているのかいまひとつ判然としないのが彼女らしい。
「……かっこよかった」
「ねねも、道中で練習させて演出を指導したのですぞ。恋殿」
 言葉少なに言う赤毛の女性に、帽子をかぶったちびっ子が胸を張るのは、恋と音々音。
「ふん。所詮こけおどしだろう」
「それでいいんじゃないかなー。なにも一刀兄様が戦う必要ないんだしー」
 黒髪に一部分だけの白が目立つ蜀将焔耶が苦々しげに吐き捨てる。それにからかうような口調で絡むのは、横に髪をくくった少女、蒲公英だ。
「戦の始まりというのはこうでなくてはならぬ。兵の士気を万全に上げておくが肝要ぞ」
「たしかによくある手だが、それだけに効果もありそうだな。実際、うちの隊は士気が上がっていたしな」
「実戦はまだ先やろけどな。なにせ、こんだけの軍や」
 すでに落ち着き払い、酒杯を傾けている三人は、祭に華雄に霞。酔うほどの酒ではないだろうけれど……と一刀は少々心配していたりする。
「涼州勢や羌、鮮卑の側に動きはないのかな? こっちの動きが明らかになってからってことだけど」
 少し体を起こして、一刀は尋ねる。
 西涼勢の棟梁、錦馬超こと翠が首を振って否定した。そのしっぽのようにまとめた髪が、動きにつれて揺れる。
「新しいものは特にないよ。そもそも目端のきくやつらは数ヶ月前から気づいてるだろうしな。まあ、近づいたら近づいたで動きもあると思うぜ」
「そういうもんか……」
「そこらへんはしっかり軍議で話すわよ。まずは食事を……ってどこ行くのよ」
 詠が声をかけるのも道理。
 一刀は椅子から起き上がり、歩き出そうとしていた。軍議のための円卓にいくならともかく、方向がおかしい。
「いや。ちょっと兵の顔を見て回ろうかと……」
 その言葉に頭痛でも覚えたか、こめかみを押さえる詠。
「……あのねえ。総大将が顔出したら、兵が緊張するでしょうが」
「まあ、いいんじゃないかね。喜ぶ兵もいるだろうし。戦で疲れてる日ならあたいも止めるけど」
「うーん……。でもこいつ歩かせると誰か護衛につけないといけないから、ものものしいのよね」
 自分の大剣の手入れをしていた女性――猪々子の意見に腕を組んで考え込み、しかし、否定の言葉を告げる詠。
「よわっちいですからね」
 ねねが一言で切って捨て、肩を落とす一刀。
「……恋がついていけば、一人で十分」
「主はだめじゃ。目立つからな。まあ、それは儂もじゃが」
「ならば私だな」
「華雄も同じやろが。ちゅうか、ここの将軍勢やったらみんないっしょちゃうか?」
「それでも程度ってもんがあるでしょ。呂奉先や錦馬超は問題外よ」
 喧々囂々誰がついていくかで話し合いが始まり、取り残された当の一刀はぽつんと立って待っているしかなかった。
「……大将ってのも大変だなあ」
 そう一人漏らすのを、話し合いに唯一加わっていない焔耶が聞きつけて、大きく鼻を鳴らした。
 一刀はそれに苦笑いするだけで、なにも言おうとはしなかった。
「ということで、私か」
「私ということになった」
 最終的に二人が一刀の前に立っている。
 片方は黒髪のおとなしそうな女性、片方は翠と同じように頭の後ろで髪をくくっている赤髪の女性――斗詩と白蓮だ。
 そのうち斗詩のほうは少々不安そうな表情で、一刀と不機嫌そうな麗羽の二人の間で視線を往復させている。それを警告と受け取った一刀は一つ頷いた。
「えーと。じゃあ、騎馬の話を聞きたいから、白蓮に頼めるかな」
 あからさまにほっとする斗詩。白蓮のほうは特に気にした風もなく頷いて用意を始める。
「ああ、そうだ、麗羽。今度工兵部隊を見に行くから、よろしくね」
 一刀が小屋を出る間際にそう言うと、見るからに不機嫌そうだった麗羽の顔がぱっと輝くのだった。

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第十一回:北方」への2件のフィードバック

  1. 久し振りに斗詩の出番を見た気がする(苦笑)。地味だの普通だ等と言われているけど、なんやかんや出番のある白蓮より出番が少ない様に思われるのが斗詩だと思うのですが……
    他の恋姫SSでも“斗詩の出番が少ない”というある意味白蓮よりも扱いが酷い現実。
    地味目だけど十二分に美少女だし、結婚すれば略間違いなく幸せな家庭を築けること請け合いな娘なのにねぇ……

    毎話チェックしてますが、『仮面ライダー エグゼイド』の出来がいろんな意味で酷すぎる。ヒーロー番組としては最低な部類じゃないかなぁ……

    •  斗詩は良い子すぎるんですよねー。
       あれだけの得物振り回して地味もなにもないとは思いますが、周囲が濃すぎるんでしょうかねw
       斗詩メインの二次創作だといざこざを起こせないというのはありますねw なにがあっても少し話せばすぐに終わりそうですからw

       今年の仮面ライダーはチェックしてないんですが、そんなことになってるんですか……。
       いい作品が出てきてほしいですね。

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