第六回:対顔

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1.閑居

「暇ねー」
 洛陽の城内。
 とある庭に、一人の女性がいた。
 真桜が開発したという手回し式洗濯機『ぐるぐるぴかーんくん』量産型の前に座り、名前の通りぐるぐると持ち手を回転させている。
 この世界では数着しか存在しない『めいど服』に身を包み、雪のように白い鬼の面をつけたその女性。
 彼女こそは、いまこの時、その故国で国を挙げての葬儀が執り行われている人物――雪蓮である。
「暇よねー」
 雪蓮はもう一度のんびりと呟いた。竹でつくられた大ぶりな円筒が、彼女の動きに合わせて勢いよく回転する。
 そこにたらいをもってやってきた女性――黒い鬼面をつけた冥琳がその言葉を聞いて首を振った。
「なにを言っているのだ。暇なはずがあるものか。洗い物がこんなに溜まっているというのに」
 雪蓮はびっくりしたように振り返ると、鬼面の奥の目を見開いて、思い切りふきだした。
「ぷっ」
「なっ! なんだ!」
「いや、だって……。これまでも冥琳にそうやって言われることあったけど、それって仕事のことだったでしょ? ああ……うん。これも仕事だけどさ。いや、でも、まさか洗濯のことで注意されるとはねー」
 冥琳は言われて自分の持っている洗濯物を見、次いで自分の発言を思い出して顔を赤くする。
「し、仕方あるまい。いまの我らは一刀殿の『めいど』なわけだからして……」
「うんうん。だから子供たちのおしめを洗うのもお仕事よねー」
「そ、そうだぞ」
 冥琳はわたわたと慌てたように汚れものをたらいに入れ、石鹸まじりの水を注ぎ始めた。
 それを見ながら、雪蓮は微笑む。
 実際のところ、彼女はこの仕事が嫌いなわけではない。
 面倒だとは思うし、自分がやることなのかどうか疑わしくも思う。だが、大事な冥琳の双子も、その他の子供たちもかわいい。
 おしめを洗ってやるくらいは苦にならなかった。
 ただ、ちょっとおかしかったのだ。
 こんな平和な時間を過ごしている自分が。いや、自分たちが。
「一刀はいま、私たちの葬儀に行っている」
 少し顔を引き締めて、雪蓮はぽつりと言う。
「ちょうど今日あたりだな。予定通りに行っているなら、一刀殿は葬儀に参列しているはずだ」
 頭の中で日程を確認して、冥琳は補足する。
 ただし、予定通りに行っているかどうかはかなり怪しいところだ。
 魏の覇王が国内の謀叛によって参列の予定を取りやめた、となればそれなりの混乱が生じているだろうから。
 とはいえ、実際にどの程度のずれが生じているのかまでは洛陽にいる冥琳たちにはわからない。
「変な気分ね」
「ああ」
 自分たちには、もはや孫策と周瑜としての生はないのだと思うと、なんだか奇妙な気分だった。
 自分で選んだ道ではある。
 月――かつて董卓を名乗り、いまは彼女たちの『めいど』の先輩である――が無理矢理その名を抹消されたことに比べればずいぶんとましな話だ。
 それでも長年慣れ親しんだ名を捨てることに複雑な思いを抱くなというほうが無理であろう。

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