第五回:謀事

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2.森の女王

 森の中心付近には、それほど小さくもない泉があった。
 おそらく、地下水脈かなにかで江水とつながっているのだろう。水は澄んで、小魚たちが泳いでいる。
 二人は馬の骨や内臓を埋めた後で、その池で水を浴びることにした。
「ふぃー。しかし、しばらくは絶影に二人乗りやなー。まあ、下手な馬買うよりは、建業で譲ってもらうほうがええやろし、しばらく我慢したってな」
 霞はさっさとさらしと袴を脱いで水の中に入ってしまっていた。
 血自体はそれほどついていなかったが、精神的にも、どこぞの獣を寄せつけないためにも、血臭ははやめに落としておきたかった。
 髪留めも外し、長い髪を垂らす姿は比較的珍しい。均整の取れた体に、濡れて色を濃くしたようにも見える髪が張り付く様は、見る者の鼓動をはね上げるに十分だった。
「あ、ああ。そうだな」
「……一刀、なんではいってきーひんのー?」
 一刀のほうも上半身は脱いだものの、なぜか水を手でかけるくらいで、本格的に入ってこようとしない。
 汗もかいたろうし日差しのきつさもある。水の冷たさを警戒するなんてことはないはずなのに。
「あー、いや。ちょっと恥ずかしくて」
 予想外の返答に、霞はむくれる。
「なんや、いまさら」
「だってさ。霞、綺麗すぎるから」
 そう。一刀の目には、その泉で水を浴びている女性の姿はあまりに美しく感じられた。
 全体としては細いくせにしっかりとしなやかな筋肉が乗り、それに支えられる大きな胸ははちきれんばかりに突き上げられる。
 脇腹から腰を下り、かわいらしい尻につながる曲線のなんと完璧なことよ。割れた腹筋をうっすらと肉が覆い、そこから下腹部のかげりにつながる地帯のなんと悩ましく彼を惹きつけることか。
 そして、なにより、玉のように水を弾き、きらきらと輝いている彼女の肌。その一挙手一投足は猫科の動物を思わせて、この森に君臨する女王のようにすら思えるのだった。
「……あー、もうあかんわ。もう、もう」
 わけのわからないことを言っているのは、きっと照れているからだろう。けれど、けして体を隠すことなく、逆に抱き留めるように手を広げてみせる。
「だいたい、うち、普段からさらしや袴しかつけてへんやん」
「それとはやっぱり、違うよ。いまのこの姿は、他の誰にも見せたくないものだよ」
 広げられた手は彼を招いている。そのことがはっきりとわかった一刀は、下の服も抜き始める。
「……はいってき?」
 しかたないな、と覚悟を決めて水の中に進む男のものはすでに隆々と立ち上がっていた。女はそれを見て、声を出す前に乾燥した唇をこすり合わせて湿らせずにはいられなかった。
「興奮したん?」
「ああ」
 ざぶざぶと水をかき分けて進んでいけば、女の熱い体が彼を抱きしめる。肌の上を彼女の指と、彼女の体から弾かれた水滴が流れなぞっていく感触に、男は身を震わせる。
「うちの体見ると、一刀のんはこうなるん?」
 軽く握りしめるようにして、指を絡ませる。
 その硬さよ、その熱さよ。男の肌から漂う彼の香りとも相まって、霞は頭がくらくらするような気がした。
 いや、実際に、彼女の意識はもはや普段とは違う場所に追いやられてしまっているのだろう。
「ああ、そうだよ、霞」
 口づけられ、舌が唇を割り入った途端、女は男の興奮に自分も絡め取られたことを知った。

 ちゃぷ、ちゃぷ。
 水を揺らす音がする。
 ちゃぷ、ちゃぷ。
 頭の中で音がする。
 それが泉の水が立てている音なのか、口内の唾液が舌でかき混ぜられることで起きる音なのか、もはや霞には判別をつけることが出来なかった。
 彼女は男にしがみつくようにして、水に浮いている。肩にかけた腕の力と浮力のおかげで脚を彼の腿にひっかけるようにして浮き上がることが出来るのだ。
 だが、彼女の体を本当に支えているのは、彼女の秘所に突き立てられた熱い熱い男のものに他ならなかった。
 突き上げられる度、快楽と共に彼女の尻がはじけ上がり、水の中に沈みそうな不安感にしがみつく力を強くすると、その動きで中をこすり上げられて、さらなる快感が走る。
 すでに彼女の口から出るのは、意味のないあえぎと、男の名だけ。
 そして、舌は彼を求めて突き出され、柔らかな男の舌に包み込まれることを欲し続ける。
 彼女の体を支えつつ、尻たぶや腿をなでる指の動きの巧みさと、時折それがもたらす軽い痛み。それがより愉悦を高め、彼女を遥か高みへと追い詰めていることを、わかっていながら霞は受け入れる。
 いや、かえって貪欲に願う。
「一刀、一刀ぉおおっ」
 もう何度果てさせられたか、もう幾度熱いものを注ぎこまれたか。
 そのことすらもうわからない。
 ただ、彼女は愛しい人の肌と、自分の肌が解け合ってしまえと切望する。
 この腕も、脚も、肌も胸も腰も尻も、熱く潤んで彼の形に変えられてしまった女陰も硬い硬い男根も、全て一つになってしまえばいい。
 きっと元々一つだったのだ。そうでなければ、こうして一つになろうとして、こんなにキモチイイわけがない。そうでなければ、少しでも離れようとするだけで、こんなに切ないはずがない。
「一刀ぉおおおおおおっ」
 だから、きっと、視界が光に包まれるような悦楽を感じたその時、彼らは一つだった。

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