みなみのくにのちっちゃなおうさま

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8.おとぎの国と七つの罠

 七乃の提案したのは、俺と美以を対象とした勝負だった。
 一日の間に、蜀の側は俺か美以、どちらかを拘束してみせれば一勝となり、俺たちはそれを防げば一勝となる。
 これを五日間で五番勝負。これで勝負がつかなければ、六日目に軍同士が戦うこととなっていた。俺たちとしては――そして、おそらくは蜀側も――それを回避するために、五日間の間に勝負を決めてしまいたいところだ。なお、南蛮側に前回、蜀を敗走させた分で一勝がすでに入っている。形の上では七番勝負なのだ。
「しかし、よかったのか。あちらは孔明に文和と稀代の頭脳がいるのだぞ」
「だからこそ、蜀はのってくれたんですよ」
 食事の席で華雄が確認するのに、七乃が当然というように答えていた。
「蜀だって、本音で言えば軍を消耗させたくないんですよ。まして、こーんなかわいらしい猫っ娘たちをやっつけたとなれば、他の国にも非難されかねない。そこに私たちのほうから別の形での解決法を示してやる。これだけでものってくる可能性はありました。でも、諸葛亮だけではなく、賈駆までいるという状況があったからこそ、蜀はこちらに有利な条件をのんでくれたんです。ま、賈駆さんは華雄さんがいるって報告が上がったことで来てるみたいですけど」
 木の実の絞り汁で喉を潤してから、彼女は続ける。
「それに、知恵比べで負けるはずがないと思ってくれているから、余計な事を心配せずに済むんですよ。たとえば、いきなり約束を破って攻めてくるとかは、まずないでしょう。これで私たちはただただ勝負に集中すればいいということになります。まして、たった三勝すれば詰み。勝てますよ」
 その様子に、華雄も納得したようだったが、俺はそれ以上に頼もしいものを感じていた。
「悪知恵ならこちらが上みたいだね?」
「うむ。七乃は三国一の大悪党なのじゃ!」
「褒めすぎですよ、お嬢様~」
 いや、褒めてないよ、それ。笑い合う美羽と七乃、そして、それから伝染したらしい美以たちを眺めがら、俺は苦笑する。
 いずれにせよ、俺と美以さえ気をつけていれば済む。
 あとは、七乃のつくってくれた勝機を生かすまでだ。
 俺たちの日常を守るために。

 一日目。
 俺のもとに、賈駆からの手紙が届いた。開けてみればところどころ訂正したのか、黒く墨で塗りつぶされている。かなりの部分が塗られているので、新しい紙を使えばいいのにと思うところだが、どうもこの世界では――時代では、というべきか?――紙は貴重なものらしいのでしかたないのかもしれない。
「うーん」
「なに唸ってるんですか?」
 やってきた七乃に書簡を見せる。そもそも紙の手紙なんて久しぶりにもらったよなあ、などと思ったが、これは言わないでおいた。メールの話なんてしても、彼女にはわかるまい。
「いや、これなんだけどね」
「なんかいっぱい修正してありますねー。あやしーい」
「あ、怪しいんだ?」
 からかうように言うのに驚いて聞いてみた。
「なんか自分で塗りつぶしたみたいに思われちゃいますからねえ」
 よくわかっていない俺に、七乃が説明してくれたところによると、そもそも親しくもない相手と手紙をやりとりすることがおかしい。まして、こんなにも塗りつぶされているとなれば、なにか裏で通じていると見られてもおかしくない、ということだ。
「うーん。でも、それはないな」
「そりゃあ、一刀さんに限ってないとは思いますけど、なんでそんなきっぱり?」
 俺の態度に不思議がる彼女に、俺は恥ずかしげにうつむいて言った。
「その……俺、この世界の文字読めないんだよね」
 後々、仲良くなった詠に聞いたところ、これは離間の計というやつだったらしい。華雄に送ろうかと思っていたが、勝負のルール上、俺に送ったんだそうだ。そのために彼女に、あんたが字が読めないせいで! と罵られ、たっぷりとこの世界の字と文学をお勉強させられるはめになるのだが、それはいまはいい。
 とにもかくにも、離間の計、失敗。

 二日目。
 美味しそうな匂いにおびきよせられた美以が落とし穴に落ちた。
 なんてこった。俺たちの一つ負けだ。
 今後、皆には、厳重に注意してもらうことにする。

 三日目。
 森の端に、大きな籠がたてかけられていた。
 その下には大きな丸焼きの鶏。
「はっはっは。こんなのにひっかかると思ってるのか、さすがになあ」
 見回りに出た俺と華雄はそれを見て苦笑しか浮かばなかったので、撤去もせず美以の家に戻ろうとした。撤去したら、新しい罠を仕掛けられるかもしれないからだ。
 ところが、家に帰り着く前に、背後から響いてきた声があった。
「みゃー! 出してくれにゃーっ!」
 美以が、蜀の兵たちがびっしり囲む籠の中で騒いでいた。
 二つ目の負けであった。

 四日目。
 美以にも俺にも学習能力というものはある。
 この日は森のそこここに仕掛けられていた罠を全て破壊して回った。
 罠を壊されることを予期して仕掛けられていた二段構えの罠にひっかかり、美以がつり下げられる場面もあったが、これも華雄が力任せに引きちぎって、蜀の側に確保される前に助け出した。
 ともあれ、この日は何ごとも無く、一勝をおさめた。

 五日目。
「みんなー、おっぱい体操はっじめるよー!」
 森の端で、三人の女性が身を震わせる。その動きに応じて、その豊かな胸が揺れる。
「よせてよせて、一、二」
 劉備さんのまん丸くて張りのあるおっぱいが腕の動きでさらに強調される。
「横に揺らして、三、四」
 黄忠さんのたわわな兇器が、プリンのようにやわらかに揺れる。
「縦に揺らして、五、六」
 厳顔さんのたっぷりとした胸が、その重さを見せつけるように縦にぶるんぶるんする。
 既に三人の元にはミケ、トラ、シャムをはじめとして何人もの猫耳娘たちが集っている。おっぱいの魅力にみんなもうめろめろだ。
「ふにゃーっ。おっぱいにゃーっ」
「我慢しろ、我慢するんだ、美以!」
 夢中で飛び出そうとする美以を、俺はがっちりと抱きしめている。手をはなしたら、途端に誰かのもとへ走っていき、そのまま捕まること間違いない。
「ふふ。ほれ、顔を埋めてみたくはないか?」
「こっちの水は甘いわよー?」
 木々の合間に明らかに俺たちがいるのがわかっている。いや、彼女たちが見ているのは俺自身だ。
 その時、厳顔の口元から、ちろりと舌が見えた。その赤さよ、かわいらしさよ。
「うにゃーーーっ」
 途端、俺の腕から飛び出た美以は六つのおっぱいに埋もれるため走り去ってしまった。
「ねえ、一刀さん」
 蜀に確保される美以をひとしきり眺めやり、七乃は果てしなく冷たい視線を俺に向けてきた。
「美以ちゃんを抑える力、弱まってましたよねえ」
 いや、違う、違うぞ。けして、俺は色仕掛けになんて……。
 だが、俺の言い訳は聞かれることなく、しらーっとした顔の七乃、華雄、美羽は俺を置いて去ってしまうのだった。
 恐るべし、おっぱい!

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