みなみのくにのちっちゃなおうさま

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7.おとぎの国とお隣の国

 次の侵攻は百日ほど後だった。
 その間、華雄――真名というやつを教えてくれたのだが、なぜか恥ずかしがって呼ばせてくれない――と七乃による訓練と、南方での象の再集結を経て、南蛮は軍らしいものを持つようになっていた。
 ただし、実戦に出すにははなはだ心許ないので、蜀の側がまず交渉の場を作ってくれたのは非常にありがたいことであった。
「なあ、七乃」
「はい?」
「この世界って、七乃とか華雄が特殊で、他はみんなちっちゃいとかってことはないよな?」
「死にたいんですか、一刀さん」
 にこにこといつも通りの笑顔で怖いことを言う七乃。非常に怖いのでやめてください。
 俺たちがなぜそんな莫迦な会話をしているかというと、目の前で美以に挨拶をし終えた蜀の代表――諸葛亮さんの姿を見たためだ。
 背は小さいし、顔つきも若々しい。明らかに少女と思える年齢だ。
 これが、あの孔明? と俺としては莫迦なことを考えるしかなかったというわけ。
 まあ、実際には華雄も七乃もかなりの童顔だと思うけれど。
「みぃが南蛮大王孟獲にゃ。こっちにいるのが兄の北郷一刀にゃ。しょれとしょれと、かゆーとちょーくん」
 孔明さんが、美以の紹介に首を傾げるようにする。よくわからない組み合わせだと思っているのだろう。俺もそう思う。
「はあ。なんとも……その、驚く顔ぶれで……。こちらも、紹介していいでしょうか?」
「うむにゃ!」
 会談は、森から少し離れた平地の一角を布で仕切って行われている。当初は天幕に招待されたのだが、そのまま暗殺されてはかなわないと七乃が主張して、こうした開けた場所での話し合いとなったわけだ。
 さらに安全をはかるため、蜀側は孔明さん以外は、いまだ天幕に引っ込んでいる。あちら側としては色々と対応に苦慮しているようだ。
「では、まずは我が国の王、劉備様です」
 そうして呼ばれて現れたのは赤毛の女性。彼女はそのまま美以の側に駆け寄ると、美以の頭をなではじめる。
「にゃっ!?」
「うわあ! ほんっとに、可愛いねえ! おっきなお耳ー!」
 最初は驚いたが、別に害意があってやっているわけではないらしい。だが、美以はくすぐったいようだ。
「にゃっ、にゃにするにゃ!」
 ぶんぶんと頭を振って彼女の手を逃れる美以。
「桃香様!」
 それでも劉備さんは名残惜しげに美以に構いたがっていたが、孔明さんに呼ばれて席に着く。
 ええと、これって、友好ムード……かな? どうなのだろう。
「つ、次に賈駆、黄忠、厳顔の三人です」
 次いで出てきた三人は、一人が小柄ながら意志の強そうな少女、二人が色気漂うお姉さんだった。大きな胸を揺らす二人はさっさと主である劉備さんの両脇に付き、少女の方がこちらを見やって呆れたような顔をする。がたんと音を立てて立ち上がったのは七乃の向こう側にいた華雄だ。
「生きていたのか文和!? 貴様、蜀にいたのか!」
 駆け寄らないまでもお互いに見つめ合い、二人は言葉を交わしている。
「蜀にいたのかー、じゃないわよ。……月もいるわよ」
「な、なんだとっ!?」
 なにやら色々とある再会のようだ。不思議そうに眺めている美以に、ここは放って置いてやろうと耳打ちする。
「ええと、はじめてよろしいでしょうか」
 孔明さんも同じ気持ちだったのか、彼女たちの会話が一段落するまで待って、そうして声をかけた。華雄は落ち着かない様子ながら席に着き、全員が改めて頷いて、話が始まった。
「まず、我が方の、なんと言いますか……最初の接触ですが、これについて、謝罪します。南方のいくつかの村が襲われたと情報があったのですが、改めて調査したところ、虚報でした。騙されて出兵し、ご迷惑をおかけしたことはお詫びします」
 難しい言葉遣いがわからない様子の美以に、俺が翻訳して伝えてやる。そのために彼女は自分の席から俺の膝に移っていた。
「こないだのは嘘の報せで出てきちゃったんだって。それで、ごめんなさいって」
「ふむにゃ。まー、謝るなら許してやってもいいにゃ」
「よかったー」
 へにゃっと安心したように微笑むのは劉備。彼女が笑顔を見せただけで、妙に居心地のいい雰囲気ができあがるのはさすがと言える。構えていた様子の両脇の女性も態度が穏やかになったし、このあたりが、王たる所以なのかもしれない。
「それで、ですね。今後のことなのですが……。出来ましたら我が方に従っていただけないものかと。形としては、属国ということになりますか」
 孔明さんが言うのを俺が再び美以に話す。彼女は嫌そうな顔でふーっと唸った。美以としてみれば、なんで従わなければいけないのか理解できないというところだろう。俺も内心はそう思うが、連れてきている兵の数を見ると、慎重にならざるをえない。
 まして、今回はあの諸葛亮が率いているのだ。
「いやー、さすがにいきなりそれはどうなんですかねー」
 美以の不機嫌そうな様子を七乃が代弁するように答える。本格的な交渉は彼女に任せると、俺たちの間では取り決めが交わされていた。
「もちろんなにもなしとは言いませんわ。我が国の文物をさしあげたり、この土地で採れるものと交換したり、色々と出来ると思いますわよ?」
「うむ。さらに言えば、余計なことをせぬ限り、我らが他の国からも守ってやろう。悪い取り決めではないと思うぞ」
 黄忠さんと厳顔さんが柔らかな物腰で言う。その柔らかさが、逆にその裏にある芯を感じさせるのは、やはり手練れというやつだからだろうか。ただ対しているだけで迫力がある。
 迫力があるのは、そのメロンのようなおっぱいも同じだが。いや、二人とも西瓜かな?
「それってずいぶん傲慢な物言いですよねえ」
「さんざんっぱらわがままやってきた袁家のあんたが言うこと?」
 眼鏡の賈駆さんが言うのに、七乃はにこにこと笑って答えない。挑発にはのらないということなのか、本気で気にしていないのかわからないが、いずれにせよ不発だったようだ。
 彼女はかつて俺と話したようなことを形を変えて淡々と話す。こちらは不足していることは特にない。暴れるつもりもない。だから、黙って帰れ、と。
「とはいっても」
 ぴりぴりとした空気をものともせずに、彼女は一つ指をたてて言い放つ。
「さすがになにもなしで相互の不可侵を約しても安心できないでしょうから、ここは一つ、勝負をしてみませんか?」
「ほう? 戦をお望みか?」
 髪につけたかんざしを弄んでいた厳顔さんが囁くように言った。その声に縫い止められたように、俺は身動きが出来なくなる。
「いえいえー。まさか」
 だが、七乃にはまるで効いていないようだ。彼女はきゃらきゃらと笑いながら、こう言うのだった。
「そうしないために、ちょっとした勝負をしてみようって話ですよぉ。なんであれ決着がつけば、それなりに納得できると思いますよぉ?」

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