江東の巻・第十五回:北郷、自らの大望を意識すること

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 その夜は、呉の軍師二人を招待して、夕食後に一晩かけて議論を交わす約束だった。
 こちらから出るのは詠と俺。たまに真桜や月が参加することもあるが、今晩はいない。
 だいたい月に一度、こういう場を設けるようにしている。
 たいていは、詠のアレのすぐ後、ということになっている。アレといっても女性に特有のものとかではなく、詠だけのものだ。
 通称、不幸の日。
 名前の通り、その日一日、詠の周囲に不幸が招き寄せられる期間で、しかたなく、一日中彼女は部屋に篭もることになる。
 ほとんどの場合は、なぜか影響を受けない俺か月が一緒にいることになるのだが、それでも、どうしてもストレスは溜まってしまう。
 そこで、元々予定されている軍師勢を集めての討論の日をぶつけて知的興奮で発散させようという狙いだった。
 まあ、最近は、不幸の日と言いつつも一日中詠をかわいがってやれる日として楽しんでいるし、彼女もそれなりに楽しんでくれているようなので、それほど発散の必要はないようにも思う。
 とはいえ、それはおいておくとして。
 今晩は、詠のつくった林檎酒を飲みながら議論を続けていた。
 なぜだか、いつの間にか、俺の世界における先物取引の概要を話すはめになっていた。
「要は、先の取引を約束する、ということなんだけど」
 俺は乾燥した松の実を手元に並べ、説明を始める。
「たとえば、その年、米の一単位の値段がこの実二十個だったとしよう」
 十個ずつおいておいた松の実を二十個、ずいと前に出す。皆、前提をちゃんとわかっているということを確認してから話を進めた。
「今年はあまり天候が良くなくて、不作になりかねないと亞莎が判断したとする」
「は、はい」
「すると、亞莎は来年の米の値段が上がると予想する。だから、いまのうちから安い値段を予約しておこうとする」
 ふんふんと頷いている隣席の詠の前に松の実を二個置く。
 なに? と疑問の視線を投げかけてくるのを、手を掲げて押しとどめる。
「そこで、亞莎は、詠に『一年後、米一単位を実二十個で買う』という約束をして、松の実二個を保証に差し入れる」
「ああ、ボクが仲介役ね。了解」
「うん。さて、一方で穏は、今年は順調に実るはずだと状況判断をする。豊作になって、米の値段は下がると見るわけだね」
「ほほぅ~」
 向かいに座っている穏が興味深そうに乗り出して来た。
 おかげで、どでんと卓の上に胸がのっかっているが……。
 あ、脳内の明命さん、猫の爪は鋭いんですよ。脳内猫をけしかけるのはやめてください。
「穏は、詠に『一年後、米一単位を実十五個で売る』約束をして、これも実二個を保証として差し入れる」
 ここまではいいかな、と皆を見回すと、頷く顔が三つ。
「さて一年後、二通りの場合を考える。まず、一単位が実二十五個に値上がりした場合。この場合、亞莎はその時の値段より、安く米を買うことが出来る。一年前に約束しているからね」
「はぁ」
「で、この場合は、保証分と差し引いて実十九個を払って、米一単位を手に入れる。放っておいたら二十五個必要だったのが、二十一個で買えたわけで、四個の得だね」
 松の実を詠の前に置き、乾燥棗の実を亞莎の前に置く。
「あれ、先に二つ入れてるのですから、支払うのは十八ではないのですか?」
「一個は詠の手数料になるからね」
「ああ、なるほど」
 亞莎が納得したのか、林檎酒を飲み、棗を頬張る。
「一方、穏は大損だな。売る約束をしている以上は、なんとしてでも米一単位を用意しなきゃいけない。だけど、それは松の実二十五個もするわけだ。十五個で売る約束だったから、詠への手数料を入れると、合計で十一個も損するね」
「ふぇえ~」
 泣きそうな穏を、まだまだこれからだよとなだめる。
「逆に、値下がりした場合を考えよう」
 さすが軍師というべきか。頭を切り換えた皆がこっくりと頷く。
「たとえば、米一単位が松の実十個という値段になったとする」
 さあ、どうなる? と、穏に尋ねた。
「その場合だとぉ、私は十個で仕入れてぇ、十五個で売れるんですかぁ」
「そうそう。詠への手数料を抜いて、四個お得になるね」
「わぁい」
 儲け分の松の実を四つおいてやると、早速ぱりぽり食べ始める穏。
「逆に私はやっぱり二十個で買わないといけないわけですから、詠さんへの支払いをあわせると十一個分損ですね……。あれ、でも、支払うのは同じ十九個だから、そこまで損ってわけでも……」
「うん。先物取引は、そうやって支払いを最初に確定させられるのも利点だね。特に買いならその時決めた以上の額は払う必要はないからね。どんどん支払いが膨らむ危険はなくなる。同様に、売りの場合は物さえ確保できていたら問題じゃなくなる。安くなった時点で仕入れてしまう手もあるんだ」
「でも、これ仲介する人間にうまみがありすぎない?」
 目の前に置かれた松の実をぽりぽり食べながら、詠が聞いてくる。
「完全に信用できる相手ならね。でも、実際はそうじゃないだろ? 商人だって逃げちゃうやつもいれば、払いきれなくなってしまうのも出てくる。そういうやつがいないか監視したり、だめなやつを追放したり……。あるいはどうしようもなく取引が滞ったら、仲介者がなんとかそれを円滑になるようしなきゃいけない。けして危険性がないわけじゃないよ」
「あー、そっか……。取引の安全を図らないと、参加してくれる人間も減って、儲けも減る、か」
 俺の言葉を吟味するように考え込む詠。それぞれに何事か考えている軍師たちを見渡して、再び話を進める。
「で、ここまでが原理的な取引」
「まだあるんですか」
「うん。先物取引自体はこれでいいんだけど、もっと手軽に……というか、お金が動くように考えた結果、差金決済が行われるようになったんだ」
「差金?」
 聞き慣れない言葉に、皆が首をひねる。
「つまり、さっきの例だったら……。そうだな、値上がった場合の亞莎は、十九個をさらに払って米一単位を手に入れたけど、これをやらない」
 置いておいた松の実を全部どけてしまう。これから先は数を示さない方がわかりやすいだろう。
「その時の値段、二十五個との差額だけをもらうんだ。二十個って約束で、その時の値段が二十五個、差の五個と、最初の保証分二個から手数料一個が差し引かれた一個が返されて、手元には六個の松の実が入ってくる」
 段階を追って理解しないとわかりづらいだろうから、と話を区切り、林檎酒を呷る。
 発酵の副産物なのかわずかに発泡した林檎酒は、甘さもそれほどでもなく、アルコール度も無闇と高いわけでもない。喉を湿らせるにはちょうどよかった。
「最初に二個支払っているから、純粋な儲けは四個だ。けど、二個差し入れただけで、六個返ってくる。これは大きいだろう? 逆に、この時の穏は差し入れたのが二個なのに、差額の支払いだけで十個あるわけで、かなりの損だ」
「外すと痛いわね」
「この差金決済による取引は当初の入金金額が少ないし、物そのものを保管したりする手間もないから、投資の手段として使われる。あとは、危険性を低くするためにも使われるかな」
「危険性は高まっているように思いますけど……」
 実際は、リスクを低減させる手法が最初で、その後に投機的な取引が発展したような気もするが、そのあたりは俺の記憶の中でも曖昧だ。
 簿記の基本的なところを書き写してはきたが、こういう派生商品については一通りの知識しかないんだよな。
「逆の取引を併用するんだよ」
「逆ぅ?」
 不思議そうに小首を傾げる穏。その仕草がとてもかわいいのはもちろんだが、ぶるんと胸が揺れるのはすごい。
 ついつい目が行きそうになるのをこらえて説明する。
「実際にする取引を『米を売る取引』ってことにしとこうか。売るのは仕入れ先の関係から二ヶ月先。ここで先物では逆の取引をしておくんだ。つまり、先物での買い取引だね」
 自分の中でも考え考え、話をしていった。落ち着いて話さないと、混乱しそうだ。
「二ヶ月後、米の値段が下がっていたら、実際の米を売りさばく取引では損が出る。だけど、先物での買い取引では益が出るだろ? これで、生じる損を圧縮出来る。逆に上がってる場合には現物の取引での益を圧縮しちゃうけど、まあ、そこは危険回避にどれだけ備えるかって意識次第だね」
 杯に林檎酒を注いでくれる亞莎に頭を下げ、再び林檎酒を口に含む。
「ふーむぅ。面白いですねえ。実際には量を考えたり、値段を変えたりしてなんとか儲けようとするんでしょうねぇ」
 さすがは軍師、俺が説明していないところまで思考を発展させている。
 穏の顔を見ると、酔ってしまったのか、ぽうっと頬が赤くなって、その様子がなんとも艶っぽい。
「とはいえ、ここまでいくとなると、信用の問題が大きくなる。市場が発展してないと難しいし、離れたところでの情報の共有やなんかもなかなかね」
「たしかに難しそうね。仲介者の負担もかなり高まりそうだし。ただ、最初の取引にしても、物自体がどこにあるのかを確認する手段がないと面倒そうよね。まるっきり信じますよってだけじゃあね」
 うーむと皆が唸る中、亞莎が、あっと声をあげる。
塩引(えんいん)のようなものを使うというのはどうでしょう?」
 その言葉に俺以外の皆が納得したように声をあげた。
「塩引?」
「ああ、あんた知らない? 塩引ってのは、塩の引換券のことよ」
「へえ」
「塩は専売でしょ? 塩商人は国から塩引を買って、それを生産地に持って行って、書かれただけの塩を受け取るの。もちろん、実際には塩を運ぶ業者がまた別にいたりとかするけど、大雑把にはってことね」
 詠の説明を聞いて、頭の隅にあった知識が引きずり出されてくるような気がした。
「ああ。いつか聞いたことがあるような気もする……」
 その途端、様々な事柄が、頭の中で広がり、組み合わさり、つながり合うような、奇妙な感覚が走った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。塩引ってのは、その、塩の受け渡しを保証するんだよな」
「はい。そうですねー」
 穏の呑気な声に、さらに刺激されて思考が加速する。気持ち悪いくらい様々なことが想起され、周辺の知識と組み合わさって、思っても見なかった形を成していこうとしている。
「悪い。しばらく……しばらく静かにしてもらえないか」
「はい~」
 こくこく頷く亞莎に、またなにか始まったの? とでも言いたげながら黙っていてくれる詠。
「塩引は、国が発行する。専売だから当然だ……。国が……」
 かちりと頭の中で音がした気がした。
 それは、全てをつなぎあわせるピースのはまった音。
「つながった!!」
「うわ、びっくりした」
 いきなり大声をあげた俺に、詠がのけぞる。
「詠、地図。地図出してくれ、地図!」
「あー、もう、うっさい。わかったわよ」
 ぶつぶつ言いながらも、卓を離れ、机をごそごそ漁って戻り、一枚の大きな紙を卓に広げてくれる。
「これでいい? どうせ、大陸の全図がほしいんでしょ」
「うん。ありがとう。つながる、そうだ、つながるぞ」
 大陸──いや、漢土を描いた地図を見つめ、思わず呟く。
「あのぉ、一刀さん~?」
 心配そうな亞莎の視線と、尋ねてくる穏をうっちゃって、話しだす。
「この世界の国家の基本構造は、民に田租と賦役、兵役を課し、それを国が運用することで成り立っている。これはいいかい?」
「うん。そうね」
「は、はい」
「突然ですね~。でも、その通りだと思います」
 三者三様ながら同意を得られたので、論を先に進める。
「要は、国に入るものと、それをいかに生かすかに尽きる。つまり、円滑な税制こそが命だ」
 そこで息を整える。林檎酒を乾し、立ち上がる。
「これから、俺の理想を語る。あくまで理想で、荒唐無稽に聞こえるかもしれないけど、最後まで聞いてほしい。そして、駄目なら駄目と言ってくれ、いいかい」
「あ、えと、はい」
「まあ、聞いてやるわよ」
「わっかりました~」
 再び三人に同意を得て、勇気づけられる。
 頭の中で、熱いマグマが煮えたぎっているようだ。これをなんとか形にして、吐き出してしまわねばならない。
「さっきも言った通り、民の力は田租と賦役として国に供出されている。つまり、土地に根付いた方式だ。これを完全に改める」
 地図を指さしながら、きっぱりと言い放つ。
「田租は完全に撤廃する。そのかわり、国が農作物と布帛の……そうだな、三割までを買い上げる権利を持つことにする。市場価格よりは多少安く買い取って、それを売ることで、田租分の収入を得るんだ」
 衝撃を受けたような穏と詠に対して、亞莎はその片眼鏡をきらりと輝かせて食いついてきた。
「民から買い上げて、国が商売をする、ということでしょうか?」
「うん。そうだ。これには儲け以外にも、農作物の価格を安定させられるという利点がある。主要生産物の三割を握っているわけだからね。国が市場での買い占めによる値上がりや急激な値崩れなんかを抑制することが可能だ」
「備蓄を増やすことにもつながりますねえ……」
 衝撃から醒め、目をすぅっと細めて穏が呟く。その鋭い眼光が常とは違い、なんだか恐ろしいほどだった。
 だが、話を止めるわけにもいかない。
 止まらない。
「賦役もなくす。兵役もだ。そのかわり、兵士を出す家、職人を出す家を指定する。これらの家には先程の作物の買い上げを免除する。同時に兵や職人を出すことを義務づけるわけだ」
「代々兵士か……。まあ、そういうのに向いたやつってのはいるからね。やたらに取ってくるよりはいいかも」
「もちろん、給金も出す。ただし、軍事貴族化した場合の対処が問題だ。まあ……そのあたりは後で考えよう。さて、田租や賦役をなくした上で、なにを国家の基盤とするか。それは商売。商業。経済だ」
 さすがに、このあたりは予想できたのか、三人ともうんうんと頷いている。
「現状、物品は運ばれる途中、いくつもの関や街で検査され、税を取られる。この関税のために、長距離交易は阻害されていると言っていい。なにしろ、遠くのものになればなるほど高くならざるをえないんだからな。いくら珍しいものだからといって手が出なくなれば売れなくなり、結局のところ意味はない」
 いくつもの有名な関を、地図上で指さす。
「だから、これも撤廃する」
「大胆ね」
「そのかわり、商税は、最終売買地でのみ徴収する。そうだな、売り上げの二十分の一もとればいいか」
 5%の間接税というわけだ。実際には消費者はそれを意識することなく、商人のほうに納税させるわけだが。
「たしかに、流通は促進されるでしょう。しかし、商人が正直に税を入れてくるでしょうか?」
 もっともな亞莎の意見に頷く。
「そのあたりは、新しい帳簿組織について、俺の持ってきた知識がある。いずれ、稟あたりにそれを確かめてもらう予定だけど、さっきも言ったような先物取引なんて複雑な取引もちゃんと記帳できる仕組みだから、まず大丈夫だよ」
 もちろん、税務に関する役所は多少力を入れなければならないだろうが。
 徴税吏よりも、監査に入る部署を増やさなければならなくなるだろう。その前に、複式簿記を普及させなければいけないんだけど。
「それにね、俺は、関税をなくすと言っただけだ。関や街での検査自体をなくすわけじゃない。街道の安全を守る意味でも、関自体は拡充するべきだろう」
 関での賄賂の横行をまずなくさねば、これらの前提は崩れるのだが、そのあたりは、まだ先の話だ。
「なるほど……。物流の流れ自体は監視される。その上で税の流れと矛盾すれば摘発することも……」
 じっと考え込む亞莎と対照的に、詠は疑わしげな顔つきで、俺のことを見上げている。
「かなり根幹を変えてしまう話だからなんとも言えない部分もあるけど、それほど流通が発達してくれるかしら。あんたの話って、物品の流通が莫大に増加してくれないと成り立たないわよ」
 実際に試算してみないとわからないが、彼女の言う通り、現在とは比べ物にならないくらいの流通量がなければ成立してくれないだろう。
「その通り。まず、必要なのは街道の整備、そして、安全を確保すること。そして、なによりも大事なのは、簡単な取引の方法を提示することだろう。ここで、塩引が出てくる」
「塩引ですかあ?」
 なぜかは知らないが、穏の尋ねる声が色っぽい。
 なにかますます頬にさす朱も強くなってきているし、よほど酔ったのだろうか……。
 それでもちゃんと話を理解できているあたり、さすがと言える。
「塩引をね、お金として使うんだよ」
「お金?」
「うん。塩ってのは重要な資源であると同時に、常に生産され続けるものでもある。その点、掘り尽くしてしまうかもしれない銅や、絶対的な量が少ない銀とは違う。細かい商売なら銅銭で充分だが、たくさんの銅銭を持ち歩くのは不便だ。逆に、銀は少量で価値を持つけど、これも絶対量が不足するせいで使いづらい。そこで、塩とつながっている塩引を使う」
「塩の価値は間違いなく存在して、しかもほぼ無尽蔵……。さらに、国が専売することで、安定的な保証がなされる。そういうこと?」
「うん。そして、塩引は銀で販売することにする。これで、銀―塩引―塩という連環ができあがり、塩引を紙幣として使う準備が出来る」
「紙幣……」
 三人の言葉が揃う。
 貨幣経済そのものが浸透しきっていない現状では、俺の世界のような兌換性のない信用貨幣は通用しない。
 なんとかしてなんらかの裏付けのある紙幣を作り出さねばならない。それを解決してくれたのが、塩引の知識だった。
「銅銭より高額な決済手段として塩という保証を持つ塩引を使い、商業取引を簡便化する。さらに海上流通、西域への流通、色々なものを見据えて開発していく。けして、不可能ではないはずだ」
 しばらくの間、沈黙が落ちる。
 おそらく、三人の頭の中ではすさまじい勢いで思考がまわり続けているに違いない。
「いま言えるのはこのあたりまでかな。これから細かいところを詰めて、華琳に見せようと思っている」
「はいはい。どうせボクもつきあわされるんでしょ。わかってるわよ」
「うん。ごめんな、詠」
 口ではきついが、それほど嫌そうな顔でも無く詠がぶーたれるのに、一応謝っておく。
 実際、彼女の手を大幅に借りなければ、試案という形にもならないだろう。
「実現するかどうかは、試算してみないとわかりませんがぁ……。一つ間違いのない利点がありますねぇ。異民族支配にも適用可能なことです~」
 熱っぽい穏の言葉を、亞莎が引き継ぐ。
「呉で言えば、山越に税をかけられることですね。彼らは里人と商売をします。その売買だけに注目すればいいんですから。これまでのように踏み込んで田畑の調査などをする必要がなくなります」
「買い上げに関してはまた考えないとだめですけどね~」
 それから、二人で議論を始めてしまった呉の軍師二人をよそに、詠は一人、何事か考えていたようだが、俺に近づくと、そっと耳打ちしてきた。
「一つ確認したいことがあるわ」
「ん?」
「あんた、これ……この試案、どこまで適用させるつもり?」
 その当然の疑問に、俺はしっかりと彼女の目を見据えて答えた。
「もちろん漢土だけじゃない、遥か羅馬まで、大陸全土に」
 と。

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