寝室につくと、腕の拘束を解かれ、代わりに、鼻のあたりから頭頂部までを覆う仮面のような装具をつけられる。これで完全に視界は奪われる。
見えなくなると、音と肌の感覚がことさら鋭敏になる。そして、あいつはボクを不安がらせないように、目隠しをつけた後は必ずボクのどこかに……体のどこかで触れている。
たとえば、いましているように指をからめて手をつないでみたり、あるいは、口づけを肌に降らせてきたり。
腕をとられ、右腕と右脚、左腕と左脚を連結される。
こうすると、ぴたりと両手足を閉じて体をまるめるか、脚を大きく広げてかかげるか、どちらかしかできない。
もちろん、前者の姿勢をとろうとするボクを、あいつは許しはしない。腕で無理強いすることはないけれど……。
「だめだよ、詠。せっかくの綺麗な体を隠しちゃ」
「だって、はずか、恥ずかしいっ」
「うん。でも、見せて」
ボクは、その強い興奮の込められた言葉に、逆らうことが出来ない。
あいつがボクを見て、興奮している。
いやらしく脚を広げ、恥ずかしいところを全部さらけ出したボクを見つめて、欲望を昂らせている。
そう考えるだけで、ボクの頭の中はおかしくなりそうになる。いや、きっと、とっくにおかしいのだ。ボクの頭も、体も。
「あれ?」
あいつのとぼけた声に、心臓が跳ね上がる。
渦巻く波が怒濤となって、その場所から背筋を上ってくる。
「触ってもいないのに、垂れてきたよ、詠」
閉じようとする脚を、ぐっと割り開かれ、あいつの体がボクの上に乗ってくる。
どうして? と耳元で囁かれる。胸にのしかかるようにしているあいつは、もう裸になってしまったらしい、肌と肌が触れ合う感覚が安心感を誘発する。
「あ、あんたに見られてるからよ!」
もうどうしようもない。違う答えを用意する余裕もなく、ボクはそう言わざるを得なかった。
「よく言えました」
突然侵入してくる、太く、硬く、熱いもの。
「うわ、くる、くる、くるうううううううううっ」
あいつが入ってきた途端、ボクは、第二の水面に放り投げられる。第二の水面、つまり、さっき達した絶頂が、何度も何度も襲ってくる場所。
「ふわ、あ、く、も、たすけ……たすけ、てっ」
波が、くる。
最初の頃の波とはまるで違う、巨大な波濤。引いていっているはずなのに、次々と新しい波がくるせいで、連続で快楽の絶頂に打ち上げられ続ける他ない。
「なんだか今日は、反応がいいね」
一瞬、本気で、こいつが憎らしくなる。
なにを当たり前のことを。
一日中拘束具をつけられ、散々焦らされた体が、反応しないわけがない。
だが、そんな感情は、全てを飲み込む熱い渦に捉えられ、引きちぎられる。
ボクの中で、あいつの動きが変わる。ボクの反応を見て、本格的に動かすことにしたのだろうか。回転し、ボクの中のいくつかの場所に押しつけるように力を加え、浅く入り口をいじった後、深いところにぐっと押し込まれる。
その全てがあまりに切なく、あまりに心地よい。
泣きたいほどの喜悦というものを、この世の女性のどれだけが感じられるのだろう。
腕も、脚も、指も動かせず、視界さえ奪われ、ただ、快楽だけを注ぎ込まれる。愛する人に全てを委ねる感覚。生き死にさえも、いまは一人の男に握られている。
この、なんと、苦しく、なんと、幸せなことか。
「あ、あ、あ、あ」
もはや、喘ぎもわけがわからない音の連続でしかない。
「詠、詠……」
あいつが、呼んでいる。
ボクの名を。
ボクの真名を。
荒い息の中、ボクの名前だけを呟いている。
それを意識した途端、視界が白に消えた。
元から閉じられていたはずの視界が、まぶしすぎる光を見たときのように白一色に塗りつぶされる。
そして、襲ってくる、多幸感。世界の全てがボクたちを祝福する。ありとあらゆるものに、ボクは感謝する。
その瞬間、ボクの世界が『開いた』。
全てが、全てが、全てがボクの中に入ってくる。
あいつの息づかい。
あいつの快楽。
あいつの太く長いものが、ボクをえぐる時の水音。
あいつの鼓動、ボクの吐息、あいつ、ボク、あいつ、あいつ、あいつ、あいつ……ボクの世界。
音が見える。
快感が爆発する。
「ぼ、く……」
とてつもない幸福感と愉悦の中で、心の底から湧き上がってくる言葉を、ほんの少しだけ残った理性が押しとどめる。
まだだめ。
まだこれを言ってはいけない。
だから、ボクはねだるしかない。
「おねが……い。くち、口枷、も……」
回らない口を無理矢理動かし、喘ぎの中で、なんとか意味のある言葉を発する。でも、たぶん、ほとんど言葉にはなっていないだろうと思う。それでも、こいつは聞き分けてくれるのだ。
そう、聞き分けてしまう。
「ん……。でも、口までしちゃうと、意思表示が……」
「おねがい……しま……す。おねが……」
はやく。はやくはやくはやくはやく。
おさえきれなくなる前に、はやくボクの口を閉じて!
嗚咽のような嬌声を漏らし続ける口に、あいつの指が入ってくる。舌を挟まれ、そこに革巻きの棒をあてられる。歯で軽くそれを噛んで固定すると、指が抜けていった。
革巻き棒の両端がひっぱられ、ぐいと頬が圧迫される。きっと、ボクの顔はだらしなく歪み、だらだらと涎を垂れ流しているだろう。
それでも……それでも、この言葉をいまこいつに捧げるわけにはいかない。
こいつが本当の意味でそれを受け取れるようになるまで、ボクは我慢しなくてはいけない。
頬を回った帯が、目隠しと連結されるのがわかる。これで、もうボクの口から出る音は、意味をなし得ない。
そうして、ようやく、ボクは叫びを解放する。
「むーーーーっ、んんっっーーーーーーーーーっ」
けして聞こえないことをわかっていながら、ボクは叫ぶ。口枷を噛み締め、唸り声にしか聞こえないその叫び。
届かない、届かせたい、矛盾したその言葉を。
ご主人様!
ボクのご主人様!!
ボクの名前は賈駆。字は文和。真名は詠。
幼なじみである月を頭に旗揚げするものの、敗れて逃げ延びた劉備陣営からも追い出され、自分たちだけでやっていこうとするも果たせず、北郷一刀という男に拾われることを選んだ。
これは月の決断でもあり、ボクの推薦でもあった。惚れてしまった男のもとにいくことに色々理由をつけて、それでも智謀の士でございと虚勢を張ることしかできないちっぽけな人間。
そして、月に一度、周囲にそんなボクの不運を振りまくというよくわからない体質を兼ね備えているおかげで、北郷一刀の女の中で唯一、一ヶ月に一日だけ彼を朝から晩まで独占できる。
とても幸福な女。
えろぉぉぉい!説明不用!(笑)
詠ちゃん、もう身も心もすっかり堕ちてしまってますねぇ。
口枷してようやく出せる「想い」に詠ちゃんらしさが出てるな~と。
一刀さんに出会えて、詠ちゃん大勝利!!っすね。
ありがとうございますw
今回は直球のエロですね。
個人的には、詠ちゃんは原作でもツンデレと言われつつかなり依存しているというか、月ちゃんよりやばいんじゃないのと感じられるところがあります。
そのあたりが、この話でも出てきてるかな、と。
それでも、簡単には言葉を口にしないのは詠らしさが出せたかと思っております。
華琳様とかももっと一刀さんの傍にいたいと思ってるはずですが、立場がありますからなあ。