番外編その二:幸福な一日

1 2 3 4

 ボクは床に座らされ、後ろ手に拘束される。
 拘束するのは簡単だ。『ぐろーぶ』についた鉤を環に通し、締具で締め直せばいい。それだけで、ボクの腕の自由はなくなる。
 手首、肘、その上。三カ所で留められたボクの腕は伸び、それ以外の姿勢を取ることができない。
「はぁっ、はぁっ……」
 ボクの息は荒い。
 拘束されているから?――是。
 姿勢がきついから?――否。
 ボクは、この男に拘束されることに、それ自体に酔っている。
 そうして、拘束され、簡単に身動きのとれない姿を見下ろされている、いまの状況に酔っている。
 変態、とボクはあいつを罵った。
 だけど、変態なのはどちらだろう。
 いま、こうして物欲しげにあいつを見上げている女のほうではないのか。
「綺麗だよ、詠」
 そう言われるだけで、体が震える。普段なら、なにお世辞言ってるのよ、馬鹿じゃないの、とはねのける言葉を表向き拒絶することすらできない。
「あ……う……」
 ゆっくりと頭をなでられる。
「愛しているよ、詠」
「な、な、なによ、こんなときだけ……」
 刺激が強すぎたのか、反射のように言葉が出てくれる。それでも、声が濡れて、甘えるように揺れるのは変えようがなかった。
「そうかい? 毎日とは言わないけど、それなりに意思表示してると思うけどなあ」
 それは……知ってる。
 ただ、ボクが無視してるだけ。ううん、そういうふりをしてるだけ。
「届いていないなら、忘れないように、ちゃんと言っておかないとな」
 あいつも低く屈み込んで、耳元で囁かれる。
「詠がいてくれるおかげでいつも助かってる。仕事のことだけじゃなくて、な。ありがとう、詠」
 不意打ちだ。
 いくらなんでも、こんなことを真面目に言われるとは思ってもみなかった。おかげで、構えていたのにまるで反応が出来ない。喉から、甘えた子猫が鳴くような声が漏れ出てしまう。
 露出した肌に手を触れられて、胸元から脇腹、そして、あの茂みの手前までなで下ろされても、口から漏れるのは意味のない嬌声だけ。体をくねらせてその手の感覚をさらに求めているボクは、きっととてもだらしない顔をしている。
 唇を重ねられる。
 びりびりと、波が走る。
 快感の感じ方は、人それぞれだろう。けれど、ボクの場合、それは波の形をしている。体中を走る波が頭の中で渦巻いて、ゆっくりと引いていく。
 問題は、それが繰り返しではなく、何重にも何重にも重なってくることだ。はじめの波が引ききる前に次の波が荒れ狂い、そうして、はじめの波まで再び襲ってくる。
「あふ……ふわ……」
 あいつが導いてくれるままに、舌をあわせる。あいつの動きに合わせ、予想外の動きにはなんとかこちらも動きを変えて対応する。口の中を蹂躙していくあいつの舌が、何度も何度も波を生じさせる。
 重なりあった波は、ボクをゆっくりと一段高い場所に持ち上げていく。
 触れられる指がくれる刺激が、舌が蠢く熱さが、あいつの体から発する熱そのものが、快楽へと変じていく水面へ。
「ひうっ」
 ボクの女の場所に、あいつの指が触れる。これまでとはまるで違う、乱暴とも言えるほどの力強さで、ぐちゃりといじられる。
「あ、あ、ああああっ」
「もう、ぐっしょりだ」
 口をいつ離されたのかもよくわからない。あいつの指が、ボクの中をいじくりまわす。
 あいつの、指、が。
 あいつの優しい声。ボクの肉芽と柔らかな襞を探る指。拘束され、いくら力を入れても動かない腕。
 ぐるぐるぐるぐると、ボクの中で快楽が渦を巻く。
「ふわ、あふ、ふくっ! ああ、くっ」
 水面から大きな波がやってくる。
 冬の日に、日溜まりにいるような快楽。
 夏の日に氷を口に含んだ瞬間の驚き。
 そんなものをすべて合わせて、けれど、それ以上のもの。
 それがボクを、さらに高いところへ放り出す。
「うわあああああっ」
 大きな声をあげ、体を反らす。腰のあたりから発したうねりが脳天へ抜け、ボクをはね上げようとする。だが、波はそれ以上反復することなく、確実に引いていく。
「軽くいっちゃったね」
 そう、軽く。この信じられないほどの愉悦ですら、軽いものなのだ。
 これからもたらされるものに比べれば。
「あんたが……あふ……かって、に、いかせ、んっ、た、のまちが……」
「うん、そうだね」
 ボクの喘ぎまじりの強がりも、ゆったりと抱きしめられるので返されては意味がない。ボクはあいつに抱えられ、荷物のように持ち上げられる。
「立てないよな」
 それは、その通りだけど、なんとなく悔しい。それに、こうして腕を拘束されていると、しがみつくこともできない。
「寝室へ行こう」
 そうして、ボクは、身動きがとれないまま、あいつに運ばれていく。

1 2 3 4

番外編その二:幸福な一日」への2件のフィードバック

  1. えろぉぉぉい!説明不用!(笑)

    詠ちゃん、もう身も心もすっかり堕ちてしまってますねぇ。
    口枷してようやく出せる「想い」に詠ちゃんらしさが出てるな~と。
    一刀さんに出会えて、詠ちゃん大勝利!!っすね。

    •  ありがとうございますw
       今回は直球のエロですね。

       個人的には、詠ちゃんは原作でもツンデレと言われつつかなり依存しているというか、月ちゃんよりやばいんじゃないのと感じられるところがあります。
       そのあたりが、この話でも出てきてるかな、と。
       それでも、簡単には言葉を口にしないのは詠らしさが出せたかと思っております。

       華琳様とかももっと一刀さんの傍にいたいと思ってるはずですが、立場がありますからなあ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です