昼食を終えると、二人ですこし微睡む。
平和な時間だ。
さすがにこれにはボクもなんの文句もない。
さわやかな香りが漂ってきて、夢の世界からひきあげられた。どんな内容だったか何ひとつ思い出せないのに、ただ、幸せな気分だけが続き、体がふわふわする。
少し長く寝すぎたみたい。
「詠、茶を淹れたけど、飲むかい?」
「ん……」
お茶の香りに導かれるように、地に足がつかないような意識のまま、寝室を出た。しっかりとボクの分も用意されたお茶の席につき、あいつの世界の焼き菓子――を月が再現したもの――をぽりぽりかじる。
うん、さすがは月の焼いたお菓子。ほのかに甘くてとても美味しい。
「ん? 火を入れたの?」
お茶で一服して、ようやく意識が普通に戻って、部屋が妙に暖かいのに気づく。
「ああ。さすがに寒いからな」
涼州の寒さに比べれば、呉の冬なんてのは、春と同じだ。
しかし、こいつはかなりこまめに温度調節をしようとする。暑いときには、涼をとるための機械を真桜につくらせていたほどだ。その扇風機とやらは、結局完成が冬に入ってしまい、使われてはいないんだけど……。
とはいえ、いま温度調節されているのは、おそらく、別の理由。
あいつが立ち上がり、ボクの後ろに回る。そのまま後ろから伸びてくる手。優しく、椅子ごと抱きしめられる。
「ちょ、ちょっと! なにすんのよ!」
「寝顔がかわいくてさ。でも、起こしたくなかったから、起きてるときに抱きつかせてもらう」
「うーー」
うなり声をあげるものの、それ以上は抵抗しない。
無駄だからだけでは、きっとない。
「仕事、終わったの?」
「うん。詠に手伝ってもらったから、書き仕事は明日の分まで終わったよ。これで、明日には荷物まとめられるかな。今後のこととか考えないといけないことはあるけど、これはなあ」
「それはあんたにずっとつきまとうわね。もちろん、ボクもだけど」
「そうだな。民からの税で生きている以上、大陸の未来を考え続けるのは俺たちの務めだな」
こんなことを、真面目に、しかも女を抱きしめながら言える為政者はなかなかいない。こいつは、恐ろしいことに、言葉も抱きしめているのもどちらも本気で、同じくらいの熱意を持っているのだ。
その手が動き、まず眼鏡が外され、落ちないようにと丁寧に棚の上に置かれる。その後で、再び抱きしめられ、服の留め具を外し始める指。
「うー、やっぱり、そうするの?」
「いや?」
「……嫌じゃなくて恥ずかしいって毎回言ってるでしょ!」
言っているうちに、あっと言う間に脱がされ、上下の下着と、『ぶーつ』、『ぐろーぶ』だけにされてしまう。
この芸当だけは、本当にどうやっているのか理解できない。
「それなら、成功だな。だって、俺は、詠を恥ずかしがらせたいんだから」
「くっ、この変態。意地悪ちんこ!」
そう毒づきながら、体を隠すことはしない。下着はまだ着けているし、どうせ隠せば、こいつに動きを封じられるだけだ。
……本当はじっと見つめられる視線が熱くて動けないのだけど。
そういえば、今日は新しい紫の下着だ。月の髪の色に近いので気に入って買ったのだ。
こいつの下に来てから、ボクも月も下着にかけるお金が段違いに跳ね上がった。
まず、いつも可愛らしいめいど服とやらを着せられるので、それとの釣り合いを考えなければいけない。次に、いつ誘われるかわからないので、女の障りの日以外は、いつでもとっておきを着けることになる。気を抜いた下着を着けていて後悔するよりは、可愛らしい下着を着けていて、空振りになる方がまだましだ。
もちろん、ボクも月も、こいつに見せるためとかじゃなくて、可愛い下着は好きだし、女なら自分を飾るのにある程度は関心を持つものだが、それにしてもここまで気を遣うようになるとは思いもしなかった。一度凝り始めると、止まらないのだ。
「その下着、詠の肌を引き立てて可愛いね」
「そ、そう」
「うん。でも詠自身のほうがもっと可愛いけどね」
耳元で囁かれるように言われると、体中がかっと熱くなる。
「なっ。馬鹿言ってんじゃないわよ、このちんこ大王!」
こうして、ボクを追い詰める──あいつなりに言えばかわいがる──ために部屋の空気をあたためておく周到さを、ちゃんと他にも使ってほしいものだ。
いや、普段も結構周到なのが腹が立つところよね。
「ひどいな。信じてくれないの?」
がたんと椅子ごと向き直らされる。真っ直ぐに見つめてくる瞳に耐えきれず、顔を背けてしまう。
「詠はこんな可愛いのに」
「だから、ボクは、その……」
文句も段々言えなくなってくる。こいつが本当にボクのことを可愛いと思ってくれていることが伝わってくる以上、それを否定するのにも気力が要る。
裸に近い格好に拘束具をつけられている状況で、気力を振り絞れというのは難しい話だ。
「そう、この下着がなくても、本当に綺麗で、可愛い」
ゆっくりと指が下着にかかる。まずは胸をさらけ出される。その場所を見つめられるだけで、乳首に血が集まっていくような感覚がある。
「詠……」
優しく、本当に優しく、あいつの呼びかける声がする。ボクを守る唯一の布切れは、すでに彼の指がかかっている。力を込めれば、すぐに脱がせるはずのそれを、あいつは、まだ待っている。
なにを?
ボクが、屈伏するのを。
ボクが、素直になるのを。
ボクが、自分のいやらしさを認める瞬間を。
「こっちを見て、詠」
「うっ……くっ」
苦鳴のような声を上げて、最後の抵抗をする。
「詠」
だが、それもすぐに崩されてしまう。あいつの呼びかける声。あいつがボクを呼ぶ声、あいつが、ボクを、このボクを求める声に、崩されてしまう。
「は……い」
顔をあいつに向ける。ボクたちは見つめ合い、そうして、あいつは、ついにその小さな布をはぐ。
その時、ボクは知る。
その時、あいつは知る。
その下着が、ボクのはしたない汁で汚れていることを。
その布切れが、ボクの肌から離れる時には、すでに濡れそぼり、音を立てることを。
「ああ……」
吐息が漏れる。
ずっと……そう、ずっと。朝から快感を押し上げられていたボクの体が、ついに反応をしてしまう。
触れられてもいないのに、と疑問に思うかもしれない。
だが、それは違う。
ボクはずっと触れられていた。
あいつの優しい愛撫を受け続けていた。
あいつが用意した『ぐろーぶ』と『ぶーつ』は、違和感がないほど肌になじみながら、それでもなおボクの体をずっと刺激し続けていたのだ。
あいつにつけられた拘束具。
それだけで、ボクを、ボクの頭をぐちゃぐちゃにするには充分。たとえ、意識に上っていなくても。
いえ、忘れてしまうほど自然になっていたからこそ。
そうして、ボクは、あいつに言われるまでもなく、椅子から崩れ落ち、膝をつかずにはいられない。
恥ずかしさのために。
この身を走る快楽のために。
そして、あいつに抱き留められるために。
えろぉぉぉい!説明不用!(笑)
詠ちゃん、もう身も心もすっかり堕ちてしまってますねぇ。
口枷してようやく出せる「想い」に詠ちゃんらしさが出てるな~と。
一刀さんに出会えて、詠ちゃん大勝利!!っすね。
ありがとうございますw
今回は直球のエロですね。
個人的には、詠ちゃんは原作でもツンデレと言われつつかなり依存しているというか、月ちゃんよりやばいんじゃないのと感じられるところがあります。
そのあたりが、この話でも出てきてるかな、と。
それでも、簡単には言葉を口にしないのは詠らしさが出せたかと思っております。
華琳様とかももっと一刀さんの傍にいたいと思ってるはずですが、立場がありますからなあ。